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出会った頃の彼はやさしく、とても温かい人でした。
声音一つでわたしの心を弾ませる彼に、いつしかわたしは恋をしました。
付き合うまでにはずいぶん時間がかかりました。
なにせわたしは相当奥手なものでしたから。彼はわたしの好意に一切気づいていない様子でした。
しかしそんなわたしも覚悟を決め、彼に想いを伝えたのです。
彼が頷いたとき、わたしは嬉しくて嬉しくてたまりませんでした。
交際を始めてからの日々は光り輝いていました。
今まで普通に訪れていた場所でも、彼が隣にいるとちがう世界に踏み込んだかのようでした。
しかし一年が過ぎたあたりから、彼は少し変わりました。
優しい言葉をかけてくれることが少なくなりました。
時折、冷たい目でわたしを見るようになりました。
まるで厄介者を見るような目で。
彼が浮気をしていることに気づいたのは、偶然でした。
机の上にあった彼の携帯に、知らない女性からのメッセージが映し出されていたのを、わたしは見てしまったのです。
今思えば、彼はわざと携帯を置いていたのかもしれません。
別れたそうにしていたのは、一目瞭然でしたから。
しかし今となってはわかりません。
隣で横たわる冷たい彼に、それを聞くすべは無いからです。
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