2話

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2話

 店長の杉山はこの仕事も長く自身も子供がいる。といってももう大学生だ。新製品などの勉強会はあっても、現役の子育て中の客の意見はありがたい。 「うぶ着はそんなに要らないと思ってたら、着替えさせた途端に汚したりして枚数があって良かったわ。お祝いに貰う服は大きめでおしゃれで、すぐに着せられるサイズも必要よね。」  決まりがあるわけではないが、お祝いには先で着られるようにと、三歳児向けの九十五センチの服が贈られることが多い。よく来てくれる彼女は更に店の宣伝までしてくれた。 「上二人が男でお下がりはたくさんあるんだけど、この子が女の子だから新しいの買おうかなって。ここのは洗濯もしやすくて丈夫ですよ」  もう臨月だと言い、お腹をさすりながらにっこり微笑む。 「三人だなんてすごいですねー」  初めての出産にまだ戸惑っている若い妊婦は感心している。和やかに話しをしているとレジに向かう人の気配がする。先ほどの女性が選んだベビー服をカウンターに置き、近くにいた美咲は急ぎ駆け寄り「お待たせいたしました」と声をかけた。  生後六カ月向けの肌着と薄い桃色の春物のロンパース。上着とズボンがつながっていてボタンのかけ方でドレスのようにもなる。でも……と美咲が手を止めた  三宅は彼女が来るようになって一年だと言っていた。それから半年後に産まれていたとしても生後半年。もっと大きいかもしれない。今は夏物の方が多い店内だが出産の時期に合わせて準備をする人や海外旅行などで必要な人もいるため春秋物も置いてある。  確かに可愛らしいデザインだが、今から着る機会があるだろうか。三宅の言うように離れている孫に送るのだとしたら、お嫁さんから嫌みととられないだろうか……と美咲は考えた。 「あの、同じお孫さんに送られるんでしたら、もう少し大きめがいいんじゃないでしょうか」 「え?」  怪訝な顔をして美咲を見る。 「差し出がましいようですみません。でも今これを贈られてもあまり着られないんじゃないかと思って」  そう安価な物でもないのだから、長く着てもらえた方がお互いに嬉しいはずだ。 「いいから会計して!」  店内に大きな声が響き、談笑していた人たちが驚いて黙り込む。店長がレジに入りカウンターの上の物を見てすぐに察して客に詫びた。 「失礼いたしました、すぐにお包みします。森下さん」 「あ、す、すみませんでした。お箱にお入れしましょうか?」 「……」  冷たい表情に美咲の顔はこわばる。何度か応対している店長が透明なシートを指示する。美咲は値札を外し震える手で袋に入れて封をし、紙袋に入れてカウンターから出ようとすると店長が制した。紙袋を美咲から受け取った店長は店の外まで客を見送りに出る。 「申し訳ございませんでした」  カウンターの中からもう一度美咲は謝った。 「あんな言い方しなくてもねぇ」  お返しの注文をしていた母親が同情してくれた。  だが考えてみれば、いつもとは違う赤ちゃんへの贈り物だったのかもしれない。 「いえ、私が余計なこと言ったから。すみません皆さん」  空気を悪くしたことを周りの人にも詫び、再び店の前に目を向けた。二人のやり取りを見た美咲はハッとして、もう一度周りに「すみません」とお辞儀をして外に出た。
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