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 うちの中には、彼がいる。  真っ黒な毛の一匹の野良猫。いつの間にかベランダで見かけるようになり、気づいたら部屋に入り込んでいた。  住んでいる部屋が賃貸の、しかも一階だから、外から来るものは(こば)めない。防ぎようがない。  なんて考えていると、近くにいた猫が私の顔を見て、とがめるようにニャアと鳴いた。  わかった……認める、黒ニャンコ。いかにも「うちに勝手に居座っている」的な体裁で、説明をしてしまった。自分のプライドの為に嘘をついてしまった。  本当は私が彼のことを招き入れた。  元カレに浮気され、同居先から逃げるように今の部屋に引っ越した。それから毎日、朝から晩まで孤独で寂しい時間をひたすら過ごした。  ある晴れた日の朝だった。ただぼおっと、外を見ていた。そうしたら、物干しの手すりの(へり)を歩く猫が見えた。  私は思わず立ち上がった。キッチンに走ってツナ缶を開け、窓の隙間からベランダに手を伸ばし、餌の皿をそっと置いてみた。  たとえ動物相手でも、他人の為に食事を用意することが無性に嬉しかったのを、今でも覚えている。お昼頃に窓を開けたら、お皿はすっかりキレイになっていた。  この出来事がきっかけで、黒猫はわが()の住人となった。
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