彼ら

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彼ら

 うちの中には、彼()がいる。というか、いすぎる。  このアパートは郊外にあるけれど、住所的には田舎じゃないと信じてた。  けれど彼らはしっかりといた。その数は豊富で、出てくる回数は多くて、種類は多彩だった。いくら安アパートだからってヒドクない?  え、なんの話かって? それは……。  虫・虫・虫。 「また出た、しかも三匹! このぉ!」  私はソファから飛び出した。用意していた殺虫剤を両手に構え、壁に向かってガスを吹きかける。黒いやつらはすぐに危険を察知し、散るように逃げる。猛毒の煙が直撃した二匹が、もがきながら床に落ちていった。  背後で黒猫が悲鳴をあげる。ごめん、ニャンコ。今は構ってる暇はない。  あと一匹は――ここか! 逃げる先を読んでスプレーを噴射する私。そうとう勇ましいんだろうな。こんな捕り物に慣れっこになっている自分が、本当はとっても嫌いなのに。  戦いの最中になると、いつもこの疑問が浮かぶ。うちのアパートにはどうしてこんなに野生の生き物がいるのだろうって。  ハエ、蚊、アリ、ゴキブリ、ムカデ……隣の住人の噂では、天井裏にはネズミやハクビシンまでいるらしい。ここはワイドショーで紹介されるような害虫・害獣がとことん集まってくる建物だった。  普通の女性なら、二日で悲鳴をあげて部屋から退散するだろう。でも彼氏に貢ぎすぎてスッカラカンの私に、逃げる余裕はなかった。 「金欠にも、失恋の痛手にも負けたくない」 この信念のもと、私は意地でこのアパートに留まり続けていたのだ。  シュー!! とどめのひと吹きで、やつの脚の動きが止まった。戦いは終わった。 「やった……」  長い戦いを勝利で終えた私は、はあはあと荒い息を漏らしていた。  胸が苦しく、喉がヒリヒリした。殺虫剤を吸い込みすぎたせいかもしれない。それに、ずっと持ち上げていた腕が痛くてしかたない。敵がいなくなった安堵感に、私の肩から力が抜けていった。  いろんな意味で疲れた……私はずるずるとソファに座り込むと、そのまま微睡(まどろ)みの中に落ち込んでいった。
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