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「あぁそう、だったら俺が納得できるように説明してくれる? 食べてはいけない理由をさ。まさか頭領も口にしたこの天ぷらに、毒でも入っているとか言うんじゃないよね?」
「そ、そんなことっ……」
夕火の目が大きく見開く。喉を出た声は重圧に震えたか、上擦って言葉を途切れさせた。
室内の空気が『毒』という言葉でより一層張り詰めた。疑心の空気すら漂い始める。
しかし、険悪な雰囲気を目の当たりにした晟が、場に似合わないにっこりとした笑みを浮かべると──
「まぁまぁ、いいじゃないか! 君の傍にいつもいる彼らだからこそ、何か思う節があるんでしょうさ!」
「そうなんですっ、隊長は自覚していないかもしれませんが、この季節、山菜を口にするといつも体調を崩しているんです! きっと山菜は隊長の体に合わないんだと思うんですっ、だから!」
堰を切ったように朝火が声を張り上げた。頬には耐え切れず零れた涙が伝っている。
それを見た晟は微笑みを残してその場を立ち去り、他の者はどこかほっとしたように息をつき食事を再開した。
随分と遠回りをしながら結論付いた答えに、燎だけは呆れ顔に顔を歪めた。
「だったらはじめからそう言いなよね……危うく嫌いになるところだったよ、お前達のこと」
刺々しくも平静を取り戻した声で、激情の名残りを深い溜息で吐き出す。
それから少しの八つ当たりか、床に転がった天ぷらを指で摘むと、ひょいと開け放たれた雨戸の向こうへ放った。
ころころと庭先に落ちたそれを、どこから見ていたのか、小さな羽音と共にやって来た雀達が啄んだ。
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