一◇春風駘蕩

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「さぁさ! 賑やかなところへ失礼しちゃうよー、春といえばこれ! 蕗ノ薹(ふきのとう)の天ぷらだよー!」  騒々しい中へひときわ明るく混じってきた声。  一同が目を向けると、盛り盛りと蕗ノ薹の天ぷらを乗せた大皿と箸を手にした露木晟(つゆきまさ)が立っている。そして軽やかな足取りで室内へ入ってきたかと思うと。 「おはようございます、君公。はい、あーん」  一つ、箸で摘んだ天ぷらを小太郎の口の前へ差し出した。  皆の手が一斉に止まる。  驚愕の目が一点に視線を集める。  確かにこうして同じ空間で、これまで滅多に口布を下げ顔を公に晒すことのなかった五代目が、皆と一緒に食事をするようにまではなったが。なったがしかし。 「ちょっといくらなんでもそれは駄目でしょ!?」 と、目付役にもなりつつある伊月が一同の心情を代弁した。  が、その先で──  まるで餌付けられる鳥のように、ぱくり、と主の口が晟の箸から蕗ノ薹の天ぷらを食べた。 「……やはりこの苦味にはまだ慣れぬ。が、不味くはない……」 「うんうん、君公も少しずつ大人の味に慣れてきてるねぇ……私は嬉しいですよ! さっ、もう一つ」  どこからともなく「嘘でしょ」の言葉が聞こてきそうな視線を背後に浴びながら、晟は調子付いたように同じ動作をした。  しかし、箸の天ぷらは口に入ることなく宙に置き去りにされた。代わりに別の箸が、大皿から天ぷらを一つ二つ、三つと摘んでいく。
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