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「さぁさ! 賑やかなところへ失礼しちゃうよー、春といえばこれ! 蕗ノ薹の天ぷらだよー!」
騒々しい中へひときわ明るく混じってきた声。
一同が目を向けると、盛り盛りと蕗ノ薹の天ぷらを乗せた大皿と箸を手にした露木晟が立っている。そして軽やかな足取りで室内へ入ってきたかと思うと。
「おはようございます、君公。はい、あーん」
一つ、箸で摘んだ天ぷらを小太郎の口の前へ差し出した。
皆の手が一斉に止まる。
驚愕の目が一点に視線を集める。
確かにこうして同じ空間で、これまで滅多に口布を下げ顔を公に晒すことのなかった五代目が、皆と一緒に食事をするようにまではなったが。なったがしかし。
「ちょっといくらなんでもそれは駄目でしょ!?」
と、目付役にもなりつつある伊月が一同の心情を代弁した。
が、その先で──
まるで餌付けられる鳥のように、ぱくり、と主の口が晟の箸から蕗ノ薹の天ぷらを食べた。
「……やはりこの苦味にはまだ慣れぬ。が、不味くはない……」
「うんうん、君公も少しずつ大人の味に慣れてきてるねぇ……私は嬉しいですよ! さっ、もう一つ」
どこからともなく「嘘でしょ」の言葉が聞こてきそうな視線を背後に浴びながら、晟は調子付いたように同じ動作をした。
しかし、箸の天ぷらは口に入ることなく宙に置き去りにされた。代わりに別の箸が、大皿から天ぷらを一つ二つ、三つと摘んでいく。
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