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「……我はこれだけあれば十分だ。あとは他の者に分けるといい」
自分の箸で飯椀に取った天ぷらを口へと運びながら、小太郎はぼそりと呟いた。薄墨色の目は晟から逸れ、ちらちらと他の者へと向いている。
どうやら晟越しに一同の痛い視線が伝わったらしい。
そんな、どこか気まずそうに、俯き加減に蕗ノ薹の天ぷらを口に運ぶ姿は、晟を諦めさせるには十分なようで。
「ふふ……」
晟は笑みを零し立ち上がった。
それからは蕗ノ薹の天ぷら押し売り合戦が始まった。
文句一つ垂れず食す狛は置いとき、
「さぁさっ、魁も食べたまえ!」
「いい! 俺はいらねぇ! 嫌いなんだよ!」
「へぇ……魁ってお子ちゃまなんですね……」
「うるせえっ、お前に言われたくねぇ犬っころ!」
「犬っころ呼ぶな! 俺は食べれますよーだ!」
と、全力で晟の箸を突き返す魁に、得意気に頬張る猪助。
「ごめんなさい、私もいらない」
「あっ、僕も……苦手なので……すみません……」
連続の拒否で晟をしょんぼりさせた伊月に颯。
「君達は食べるでしょ?」
そうして、売れ残り多数の大皿を手に期待の目を寄せたのは燎の元。しかし──
「隊長は駄目です!」
「そうです! 駄目です!」
本人が答える間もなく、隣に座した二人が両手を広げて拒んできた。
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