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「は? 何言ってるの、夕火、朝火。俺は別に食べれるけど。あんなみっともない近臣の誰かさんと一緒にしないでくれる?」
拍子抜けした晟を前に、燎が抗議する。
広げられた腕を押し退け、大皿の天ぷらに箸を伸ばす。一つ、摘んで口へ運ぼうとしたその時。
「駄目です!」
二つの声が重なり、夕火の手が、朝火の手が、箸を持つ腕を掴んだ。
ゆらりと揺れた箸先から蕗ノ薹の天ぷらがころりと落ちる。口に入ることを許されなかったそれは、燎の羽織に油染みを残して床に転がった。
しん──と室内が沈黙する。
夕火、朝火の必死の声のせいではない。
燎が纏う空気が剣呑に張り詰めたのを感じたからだ。
「──お前ら誰」
腹の底から吐き出されたような、感情を圧縮したような低い声が、腕を掴む二つの手を震わす。更に剣を宿した黒い瞳が二人を睨めば、震えた手はぶるぶると痙攣したように腕を離れた。
「も、申し訳」
「お前ら俺の意思を阻害する権利持ってるわけ」
蒼白した朝火の涙声に憤慨した声が重なる。
「挙句、大事な忍羽織に染みまで作ってくれて。いいご身分だよね。誰なの、お前ら」
「すみません! すみませんっ、隊長! でも、でも食べちゃ駄目なんです!」
涙を滲ます朝火を横に、夕火が幾度と頭を下げる。しかし怒気の満ちた視線を受けながらも尚、主張は譲らない。
燎の眉間には深々と皺が寄った。
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