一◇春風駘蕩

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「私も頂きます、晟殿」  渋々といった様子で天ぷらを食べる小太郎をちらりと見ながら、狛が声を出す。  晟は嬉しそうに振り向いた。 「さーすが狛ちゃーん! 一口も食わない小童たちとは大違いだね! さあさ、食べて食べて!」 「あっ、露木様、俺も食べますよ! 近臣のくせに小童なのは嫌ですからねー」 と、嫌味たっぷりに隣を見ながら猪助が手を挙げる。  それを伊月が呆れ顔で静観している。  颯はおどおどと一人の近臣に視線を注ぐ。  先の騒動が落ち着いたばかりの燎は、不機嫌そうな顔で黙々と食している。  そして案の定と言わんばかりに、颯の視線の先で箱膳が音を立て揺れた。 「誰が小童だっておいこら犬っころ!」 「だひゃらいひゅっころよびゅな(だからいぬっころよぶな)!」 「だから口の中のもん食ってから喋れっつーんだよ!」 「ひゃれがしょうひゃせてんでしゅか(だれがそうさせてんですか)きょわっぱ(こわっぱ)!」 「今のは完全に聞こえたぞっ、もういっぺん言ってみやがれ!」  日常茶飯事、いつもの喧騒が始まった。 「はぁ、なんであの二人はいつもこうなのかしら」 「本当、犬猿の仲だね……」  大きく溜息を吐く伊月の隣で、颯も苦笑してぽつりと呟く。  すると眉間の皺を深くした燎もそこに混ざってきた。
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