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喧騒であるが、やはりそれを見守る主の目は穏やかであった。そしてその様子を見る従者もまた穏やかな目をしていた。
「春に相応しい賑やかさですね、君公」
空になった大皿を床に置き、晟が小太郎の傍へ座る。
「梅の花も咲き始め、間もなく山桜も咲き始めることでしょう。そうしたら、みんなでぱーっと花見酒をしたいですね」
「花見酒か……これまでに想像もしたことなかった」
反感を抱く忍衆のこともあって、季節が巡ろうとも催事など思いつきもしていなかった。それは戦乱の世に身を置いていたからでもあるが、小太郎自身、忍衆と共に酒を交わし、季節の風物を楽しむという概念がなかった。
しかし晟に言われてみると、梅に桃、桜に菜の花、うぐいすの声。澄んだ空の下酒を交わし、こんな風に賑わいを目にするのも良いかもしれない、と思えた。故に、
「風紋堂には、確か普賢象という名の桜があったか……満開になったら、皆で花見酒をやろうか……」
と、未だ続く舌戦に目を細めながらそうぽつりと呟いた。
それを聞いた晟はぱあっと目を輝かせた。彼は大の酒好きである。
「本当ですかっ君公⁉ それなら俺、存分に張り切っちゃいますよ!」
まだ桜が咲くには早いのだが、意気揚々と腕まくりまでしてみせた。
「おやおや、晟坊に酒とは猫に鰹節のようなものですな」
ふと、喧騒に混じって穏やかな声が混ざった。
二人が顔を上げると、大柄な二人が微笑を浮かべて歩み寄ってくる。
「將殿、力殿、このようなところまでどうかされましたか」
少しばかり目を瞬かせた小太郎が訊ねると、二人はもみ合いになっている若者らにすっと目を向け、益々笑みを濃くした。
「いえいえ、冬も終わり杉の花粉が飛び交う季節となってきたので、困っている方はいないかと、順に回っていたところです」
「あまりに賑やかな声が聞こえてきたので覗きに来たのですよ」
続けて話す二人ははてさて、とそれぞれを見回して小太郎に視線を戻した。
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