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「皆、いい表情をしていらっしゃる。春に似合う、気力溢れたよき声です。……おや、あれは蕗ノ薹の天ぷらですか」
もみ合いになっている床に転がる物を見つけ、將はおやおやと苦笑を浮かべた。
「玄間がこしらえてくれたようだが……食える者は少ない」
「若はお食べになったのですかな?」
「食べた、が。やはり苦味が強いものは苦手だ……」
「そうでしたか。春になれば山の恵みもたくさんありますからね。それを食せることは体にもよいことですよ」
「では、これから日差しは暖かくなりましょうが、花冷えの日も訪れましょう。若殿、お体ご自愛くださいね」
「我のみならず皆への気配り、感謝します」
礼を申す小太郎に、二人はいえいえと頭を下げて食事の間を出て行った。
それから。この間、無言であった晟を見ると、何やら考え込んでいるようである。顎に手をあて、唸っている。
「晟殿……?」
不思議そうに問うと、
「君公! 俺って猫なの⁉ ねぇ猫なの⁉」
と、腕を掴んで迫ってきた。
突然のことに驚いた小太郎は、目を瞬かせて硬直してしまった。
「ことわざですよ、晟殿」
そこへ助け舟が入ってきた。
主の腕を掴む手を引き離して、少しばかり不機嫌そうな面持ちで晟を見下ろす狛だ。
「は、狛ちゃん……?」
「晟殿に酒を与えれば、猫に鰹節を与えたかのような安心できない状況になる、ということです」
それを聞いた途端、晟の両手は突っ立つ狛の両腕をひしと掴んだ。
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