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懐古の情がわいて、二人は口を閉ざし空を仰ぎ見た。
雲雀が空高く舞っている。春が訪れている。
伊月は幼き頃に見た空を思い出していた。
当時の風魔一党に女忍はいなかった。刀や飛び道具、火器を扱う、加えて任務とあれば野を駆け、山を駆け、時には高所に飛び移り、そして時には惨忍な行いもする。それは体力的にも精神的にも、女には無理であると考えられていた。たとえそれをこなす技量があるとしても、女には月役がある。男と共に行動するには、体調のことで足を引っ張るかもしれない、ましてや血液を零し痕跡を残してしまうかもしれない。
女が忍になったところで、危険の可能性が大きいと考えられていたのだ。
しかし。それを覆したのが東條伊月である。
当時五歳、父に連れられ風紋堂の外庭へ行った。いずれ風魔の頭領となるであろう、自分と年も二歳程しか変わらぬ童を見に行ったのだ。それは女である伊月がいずれ、世話役として風魔の屋敷に入ることができたなら、と思惑を抱いた父の行動であったのだが。
そこで見た白銀の髪の童に、伊月は目を輝かせた。
それは色恋に花を咲かせたのではなく、自分と大して変わらない童が、大人に負けじと忍刀を振るい、風を切るように舞う姿が胸を高鳴らせたのである。
突如として、憧れと尊敬の念が心を支配した。忍として動く童の姿に、自分もああなりたいと、彼の元で共に刀を振るいたい、彼と共に大人になりたい、女ではなく忍として。幼き心の中に沸々と野望が沸き立った。
そんな彼女の視線も知らず、宙を舞う白銀の髪を持つ童。
その姿を夢中で目で追った先には、青い空が広がっていた。希望を果てしなく広げるような、青い空が。
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