序◇画策

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 夜明けが近いのか、烏が目を覚ましたか。  いやもしや、目論見が崩れる予兆か。  なんにせよ、烏一羽に惑わされてなるものか。計画を成功させるには、己の覚悟と万端なる準備だ。  一度ぐるりと周囲に視線を配り、何者かの気配がないかを見る。  ただ暗闇が広がるだけの景色に一つ息を吐くと、腰に下げた革袋から火口箱(ほくちばこ)を出す。それから懐に忍ばせておいた、折畳み式の手提げ提灯。  箱から蒲の穂と綿を織り込んだ火口を取り出し、提灯の受皿に置く。それから火打石で火花を散らして火を灯す。そのまま魚油の染み込んだ燭芯に火を移せば、提灯は完成だ。  細い柄を握り締め、ぼんやりと闇を照らし出す灯りの下、地面に目を凝らす。灯りに浮かび上がる土は、ぎらぎらと光り湿度が十分にあるのがわかる。雪解けに、澄んだ水が流れているこの土なら、上乗のものがあるはずだ。  沢を辿るように一歩、一歩、ゆっくりと足を踏み出した。 「毎年ここら辺に、確か……」  春先になると毎年この林へと入り、山菜をとっていた。先頭を歩くのはいつも老いた者で、歩みは遅く、話すのもゆったりとしていたが、年の功を積んだ話を聞くのはなかなか良いものだった。  それが今ではこうして一人で、ましてや夜半過ぎに来ているのだから、本当に風魔一党は変わってしまったのだ。いや、変わったからこそ今ここにいるのだが。
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