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突如の解散により、風魔の忍里〝隠臥〟からは大半の忍衆が五代目頭領風魔小太郎に反心を抱き、相模国小田原城城主、北条氏直の元へと去っていった。
隠臥に残るのは五代目頭領に忠誠を誓った僅かの忍衆と、今更隠臥を離れ暮らす事も躊躇われる老忍や、代々頭領の近臣を務めてきた榊川家と黒峰家の屋敷の者達だ。
「何故にこうなってしまったのか……」
深い溜息一つを吐いて、橙色に浮かび上がる地面を注意深く見ていく。
そして見つけた。
ぶっくりと楕円の葉に包まれた芽が、土から顔を出しているのを。
「あった。これ、だよな……」
提灯を近付け、ようく観察する。形、色味、これとよく似たものがあるから間違えないようにしなくてはならない。もしもこれでもう一種の似たものを持ち帰ってしまえば、計画は台無しだ。
「この薄黄緑に混じる色味の葉、そしてこの楕円の形、間違いない、これだ。膨らみもいい、今年は上物ばかりだな」
辺りを照らせば、ぼつぽつと頭を出した芽がある。だが同時に、もう一種のそっくりな奴もちらほらと見えた。
逸る気持ちを深呼吸で落ち着かせ、一つ一つ丁寧に確認をしながら袋に採っていった。
「いいぞいいぞ、これであの方も──」
提灯の灯りに浮かび上がる微笑み。
頭上を嗄れた声が通り過ぎていく。
その時、ひらりひらりと一枚の黒い羽根が舞い落ちてくるのを、気付かなかった。
夜明けは、近い──
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