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母屋の食事の場には、これまでとは違った顔触れが揃っていた。
雉狩りに出ていた二曲輪猪助、榊川狛、黒峰魁の三人はもちろんの事、母屋と隣接する下屋敷に住まう東條伊月に颯。それに加え、普段は居室で食べるはずの五代目頭領、風魔小太郎が食膳の前に座っている。
玄間がこしらえた朝食に一同が箸を進める中、
「つーか、いつからお前らも来るようになったんだよ!」
不満げに魁の箸先が向けられた方には、胡座をかき食膳に就く野城燎と、その隣で身を縮めるように正座をし、そわそわと箸を口に運ぶ朝火と夕火の姿もあった。
「相変わらず低脳な近臣だね。食事の時ぐらい静かにできないのかな」
「んだっと!?」
「しょうでしゅよ、かい。やしゅろしゃんたちゅは──」
「でえいっ、お前も口の中なくしてから喋れ犬っころ!」
「いひゅっころよびゅな!」
「どっちもうるさい!」
顔触れ違えど、日常茶飯事の賑わいは変わりなく。唯一違うとすれば、賑わいを見る小太郎の目がこれまでになく穏やかであるということだ。
近臣二人にきぃきぃと怒りの声を上げる伊月、その隣でおろおろと両の眼をさ迷わせる颯。呆れ顔に尾で床を叩く狛。鬱陶しそうに眉間に皺を寄せる燎。
黙々と箸を進めながらも、まるで愛おしむかのように小太郎はそれらをぼんやり見つめていた。
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