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ルーティーン
日曜の朝、俺はいつものように家を出た。
旧暦では春だが、春らしいようでそうでない二月上旬。曇りの下を、ほとんど無意識に歩いていく。
五分足らずでたどり着くのは、行きつけの喫茶店だった。
――カランコロン。
「おはよう、マスター」
「……いつものかい?」
マスターオリジナルブレンドのコーヒーだ。その日によって味が変わるのも、マスターの好みによる。
だがそれがいい。
「ああ、よろしく」
普通の喫茶店がどういったものかは知らないが、ずいぶん前からここに通っているし、気付けば注文もずっとこんな感じだった。
俺は朝しか来ないから、他の常連客も知らない。だが皆、たぶんこんな感じだろう。
マスターがコーヒーを入れてくれている間に、いつものように窓際の席に着いた。着ている薄手のコートを椅子に掛け、クラッチバッグから本を取り出す。
今読んでいるのは『明日、夜明けの屋上で君を待ってる』だ。
平凡だけど少し変わった主人公と、完璧すぎて尊いとまで言われる存在のクラスメイトの女子。彼女には秘密があって、それを偶然主人公は知ってしまい、秘密が共有される。だけどいつまでも隠し続けることはできなくて、という下手な恋愛ものだ。まあその偶然も本当に偶然なのかは、まだわからないが。
たぶんこの本の読者層は若い女性向けなんだろう。いくら本好きでも男性は読まなそうな恋愛ものだ。
日常の中でいつも通り好みの本を買っても良かったのだが、恋愛もたまには読んでみようと思ったわけだ。
マスターが珍しく顔をくもらせていたけど。
「……ま、気にしないがね」
ふわり、と鼻先をくすぐるコーヒーの香り。もう少しだろう、とぼんやり本の表紙を眺めながら、ため息を吐いた。
今日は少し、退屈だと思った。
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