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珍しい女性客
本を開く前にまだ熱いコーヒーを口に運んだ。
特製のモーニングセットだから、この後にはふんわりダブルソフトのトーストもついてくる。添えられたラズベリージャムは特に美味しくて好きだ。
「うん、おいしい」
マスターに笑いかける。気持ち悪いと言われがちだが、そう言った感想は大事だと俺は思ってる。
マスターも仏頂面を少しだけ和らげて「……そりゃどうも」と言ってくれた。
だが、そのままBGMに身をゆだねての読書はできなかった。
日曜の朝なんて喫茶店に来る客などそういない。特にこの店はほとんどあり得ないと言えよう。来るのは大抵昼から、見知った顔ばかりだし、マスターがそもそも社交的ではないからと言うのもある。
だから、扉に備え付けられたベルが鳴った時は、反射的に顔をあげてしまった。
「――おはよ、マスター」
女性だった。黒いショートボブ、左右に分けた前髪を軽く耳にかけている。揺れる銀色のシルバーリング。それに合わせてか、モノトーンで合わせられたパンツスタイル。失礼かもしれないが、思わずじろじろと見てしまうほどには綺麗だった。
彼女は慣れた様子でマスターに話しかけながらカウンター席に着いた。
――知り合いなのだろうか。平日の間に来る、常連とか?
だとしても、日曜日にまで来るとは、よほどコーヒーが好きなのかもしれない。ともなれば、仲良くなれる機会も、あるかもしれない。
その日は結局会話などしなかった。だが帰り際、確かに彼女と目があった気がしていた。
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