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2018 05 08 鳥は神に向かって飛ぶ
風邪をひいた。熱に浮かされながら頑張って眠ろうと試みる、午前1時。
うつらうつらしながら夢を見た。
私は京都にある有名な枯山水のお寺で、スタッフとして働いていた。
仕事内容はと言うと、団体客相手に『枯山水の石になる体験ツアー』の案内役である。
炎天下、ひっきりなしに訪れる修学旅行の学生を、一日中さばく。今日はやたら暑い日で、今にも熱中症になりそうだ。喉はカラカラに渇いて私の体は暑く、固く、石のように重い。
こんな体で一日中接客しているのが辛かった。永遠に続きそうなもぎりと説明の繰り返しは拷問でしかない。山頂まで岩を運んでは麓に転がり落とす。そんな行為を繰り返すシジフォスの神話を思い出した。
そうしているうちに、いつしか私の体は本当に黒い石になっていて、白い砂礫の中にうずくまっていた。
“なんてこった。お客じゃなくて自分が石になってしまうとは…”
すると突然、ある彫刻作品が脳裏に浮かんできた。
それは美しい曲線で空を指す金色のオブジェクト。
黄昏に沈む細い三日月のような…緊張感をたたえた日本刀のような雰囲気で、凛として空間に起立している。
その彫刻は『空間の鳥』と名付けられていた。
そして次の瞬間、こんな考えが私の頭の中に浮かんでくる。
「この呪縛から逃れる為には『空間の鳥』の、作者の名前を思い出さなければならない」と…。
うずくまったまま石になった背中に、容赦ない初夏の日差しを浴びながら、私は必死で思い出そうとした。
その名前は…たしか…アレクサンドル…あれ、違う、違うな。それは猫の絵の作者だ。
たぶん…知らんけど。
ええっと…コンスタンティン…。
そう、コンスタンティン…ええーと、コンスタンティン…なんだっけ?
そこで目が覚めた。
その後は寝苦しさの中、うとうとしながら作者の名前を思い出そうとしていた。
朝になって熱はだいぶ下がっていた。
なんだか意味深な夢…。
重くて固い石に対する軽やかで自由な鳥か…。
作者の名前をGoogleで調べようかと思ったが、やめた。
もし、自力で思い出せたら、自分の何かが変わる。そんな気がした。
何らかの呪縛から解放される。
本当にそんな気がしたから…。
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