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「お客さん、どちらまで?」
タクシーの運転手はマニュアル通りのセリフを乗車してきた男に投げかける。男は自分の持ち物を座席に置きながら答える。
「ええ、バルムキタースまでお願いします」
「『幸せの国』ですかい。こんな言い方しちゃあれだが、あんた物好きだねえ。どうしてまたあんなところに行くんですかい?」
「まあ……観光みたいなものですよ。そんな名前で呼ばれるほどですからどんな場所か気になりましてね」
「そうですかい。名前ほどいい噂は聞かないですから気を付けてくだせえ。それじゃあ、出発しますんでシートベルトをお願いしやす」
男はそれからタクシーの運転手と他愛もない話をしながらタクシーに揺られ、バルムキタース、通称「幸せの国」と呼ばれる場所に到着した。
「そいじゃあ着きましたんで、運賃はこれだけになりますね」
運転手はデジタルパネルに表示された代金を見ながらそう言った。男は運転手に金を渡し、礼を言ってタクシーを降りた。
タクシーを降りてすぐに目に飛び込んできた光景は、子供たちが外で遊んでいる姿だった。もうすぐ日が暮れようとしているのに、子供たちは街路の柔らかい光に照らされて外を駆けている。
偶然、男は子供の一人と目が合った。その子供は目線を逸らし、別の子と話をする様子を見せた。すると間もなく、数人の子供が男の方に駆け寄る。
「こんばんは。その荷物重そうだね、持ってあげようか?」
「もしかして、遠くからやってきた人? どこかへ向かうなら道案内しようか?」
男は子供たちの活発な様子に少しばかり押された。
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