幸せの国

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 リベルはおぼろげな意識の中で、どうやらその言葉は男が発したものだということを認識する。男は女と話をしているようだ。彼らの顔ははっきりとは分からないが男と女だというのは分かる。男は言葉を続ける。 「『これ』自身が世界を知って、理解していくことが重要だ」  男の発言に対して女はこう言った。 「それは、あまりに残酷なことよ。いつか世界と自分の違いに気づき、挫折するかもしれない」 「ああ、分かっている。だが、私は『これ』を信じている。自らの力で世界の出来事に触れ、成長できると信じている。だから私は……」  男がその後、何を話していたのかは聞き取ることができなかった。その後も、男と女は話を続けているようだったが、その様子だけがリベルの視界に映る。  またしても何かの音がリベルの耳に飛び込んできた。コンコンコンと何かを叩いているかのような音だ。これは……ドアをノックしている音だ。リベルはいつの間にか自分が微睡んでしまっていたことに気が付く。慌てて時計を確認すると時刻は既に八時になっていた。  椅子から立ち上がりドアを開けると、傍らに料理らしきものを準備している女がいた。 「失礼いたします。お食事の準備に参りました」  そう言って、女は部屋の中で夕食の準備を始めた。リベルは再び椅子に座ってぼんやりしていた。すると、女の方からリベルに話しかけてきた。 「お客さんは遠くの国からいらしたのですか?」 「そうですけど……何かありましたか? ここに来る途中も何度か同じことを聞かれました」 「特段何かあるわけではないのですけど、この国に他の場所から人が来るなんて珍しいものですから」
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