幸せの国

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「なるほど、そういうことだったんですね。やたらと聞かれるものですから、少し安心しました」  リベルがそう言うと女は微笑んだ。食事の準備をしながら、少しの間をあけて女はもう一度口を開く。 「お客さんから見て、この国はどうでしょうか? 興味本位で尋ねたいのですが、自分にとって普通の環境が遠くからやってきたお客さんにとってはどのように見えるのか気になります」 「とてもいい場所だと思います。景色も綺麗だし、何より人が温かいです。このホテルにくるまでにいろいろな人に声をかけてもらって、様々なものを貰いました。親切な人が多いと感じました」 「それは良かったです。ですが、親切にするのは当たり前のことです。規則で決まっていますからね」 「規則……ですか?」 「そうですよ。私たちは小さい頃から、人に優しくしなさいと教えられていますし、この国ではそうしなければいけないと決まっています。罰則もありますしね」  ホテルまでの道中でリベルが抱いた違和感の正体はこれであった。優しさという義務。簡単に消費される感情が人々の心をすり減らしていたのだ。 「罰があるということは、何らかの基準のようなものがあるんですか? どれだけの行いをすれば人に親切にできた、といったような基準が」 「いえ、そのようなものはありませんよ。相手がどのように受け取るか次第です。温かい対応が受け取り手にとっては冷たいものであったなら、規則違反ですよ」
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