幸せの国

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「暗い場所……ああ、レタリオのことですね。あの場所は人に冷たく接した人たちが暮らす場所になっています。彼らにとっては罪を償う場所でもあります。この国では普通の人がそこに近づくことは禁じられているため、私もどのような場所なのか説明できかねます」 「そうだったんですね、行ってはいけないんですね」 「まさか、レタリオに立ち入ったりしてはいないですよね?」 「ええ、なんだか近寄ってはならないような雰囲気を感じ取ったので」 「それは良かったです」  優しく笑ったホテルマンの目の奥に黒いものを感じ取り、リベルは適当に誤魔化して自室へと戻った。  近寄ってはならない場所だとリベルは知らなかった。リベルがその場所で出会った男は、対応は冷たかったもののそのことを示唆していたのだろうか。もしそうならば、冷たいあの人の方が優しいと言えるのではないだろうか。  フラクト・リベルはアンドロイドである。そんな彼には人の優しさが理解できない。  彼は彼を作った博士の指示で世界中を旅し、人間について理解しようとしている。その博士はもうこの世にいない。リベルは彼自身のことを知る者がいなくなった世界で旅を続けている。 「博士、僕はどうしたらいいですか?」  返事が来ることはないその言葉は部屋のどこかへ消えていった。  
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