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「もしもし……」
『もしもし、どうしたんだよ急に』
彼の少し迷惑そうな声。
「えっと……今忙しい?」
『べ、別に暇だけどさ……い、いきなり電話とか、珍しいじゃん?』
「迷惑だった?」
『いや、そんなんじゃないけど……なんかビビるっつーか……今度会った時じゃダメなのかなぁって……』
「私が電話かけたらビビるようなことしてたんだ」
『えぇ!? そ、そんなんじゃねぇよ』
電話の向こうにいる彼は明らかに動揺している。相変わらず嘘が下手な男だ。
「そう……じゃあ私は信じるよ」
『あ、あぁ……で、要件はなんなんだよ』
「えっと……今度あんたの部屋、行ってみたいなぁって。一人暮らしなのに部屋デートしたことないじゃん?」
こちらの疑惑を悟られないように、あくまでも自然な会話を。
『え!? ごめん、それはちょっと……』
「なんでよ、だらしないとこはいつも見てるから知ってるし、散らかってても平気だよ? なんなら片付け、手伝ってあげるし」
『いやぁ……部屋くらい自分で片付けられないとだし……お前に頼りっぱなしっていうのもカッコつかないだろ? それに……』
ーーと、彼が言いかけたその時、電話の向こうからゴソゴソと物音が聞こえてきた。
「……ん? ねぇ、今の音、何?」
『え? お、音なんてしたか?』
「うん、ゴソゴソって」
『えっと……あぁ、そうそう! うちにゴキブリがいるんだよ! お前、ゴキブリ嫌いだろ? だからうちに呼ぶのも申し訳なくてさぁ……』
完全に嘘をついているような声だけど、とりあえず信じたフリをしておく。
「ふーん、でもゴキなら殺虫剤でどうにかなるし……」
そこまで言って、私は口を閉ざした。
ドタドタと足音が聞こえてきたのだ。
「ねぇ、どうしたの? なんか足音が聞こえた気がするんだけど……」
『あー……うちの天井裏にネズミがいるんだよ。ボロいアパートだからさ』
「そっか……でもネズミにしては音が大きかったような……」
『……ふふっ』
「……え?」
突然、電話の向こうから笑い声が聞こえた。女の人の笑い声。
私は確信する。
今、彼の元には女がいる。つまり彼は、浮気をしていると。
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