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中学の三年間、私はポッチだった。
目に見えてイジメがあったとか、そういうものではない。
ただ、思春期独特の他人を思いやれない未熟な精神年齢の集団は、私を人間不信に陥らせるには十分だったのだ。
勿論、私のように環境に馴染めない人間は格好の餌食、それがイジメに発展しても何らおかしくはなかった。
そこに至らなかったのは、私が鋭いアンテナを張っていたからだ。
イジメに発展するには必ず『きっかけ』がある。
加害者が被害者の的を絞る時、先ずはターゲットが弱いか否かを見定めてくるさわりがあるのだ。
さわりに鈍感であれば、私は確実に目に見えた『イジメられてのポッチ』に成り下っていたに違いなかった。
そのシグナルを私は逃すことなく、私は自身に牙がることを示して威嚇した。
内心は怖かったけれど、ここで怯めば尾を引くことは何となく肌で分かっていた。
「ちょっと、やめてくれる?凄く不愉快なんだけど」
私がキレれば、あなた以上のヤバいキレ方をして見せると、気迫を纏って凄んだ。虚を突かれれば、大抵は怯んで一旦は退くものだ。
あいつは不味い。
そう思わせることが何より大事だった。
シグナルは本当に僅かでささやかな心の機微。
あんなもの、きっと普通は見過ごすものだ。
目に見えない悪意の粒子はそこら中に不用意にあるというのに、世間は『イジメにきっかけや原因はありません』などと、声を大にして宣っている。
きっと被害者を慮ってのことなのだろうけれど、馬鹿みたいに机上の空論を交わしている。
兎にも角にも、私は当たり障りのない人間関係を築き、平穏無事に遣り過ごすことで、その実で暗黒に塗れている三年間を乗り越えてきた。
高校生になると、そこは随分と息のしやすい環境で、思春期から移行したことを実感したものだ。
けれど、そんな私の快適だった環境は、今や彼女によって脅かされている。
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