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彼女が求めて止まないのは決して裏切らない『親友』だった。
親友――それは何でも話せる間柄なのだと彼女は言う。
「いいよ。私はあなたの親友になる。でも、親友なら礼儀を重んじて。あなたのそれは押し付けで、私の息が詰まるから」
取引を持ち掛けてでも、私は手っ取り早く平穏を手に入れたい。
彼女は何処かほっとしたように、子どものように可愛らしく頷いた。
「ねぇ、美沙はどうしてそんな風に壁を作ってるの?皆と仲が悪いわけじゃないけれど、いつも一歩退いてるよね?そういうの、皆も寂しいんじゃないかな?」
寂しい?知ったことじゃないよ。
私は人が嫌いだ。大嫌い。
私は彼女のことも腹立たしくてならない。
なのに、なのにだ――。
嫌いになり切れない。
切るには惜しいと思うから切れずにいたのだ。
彼女は私の冷たさなどまるで認めず、私を温かい人間だと信じて疑わない。
私をまるで分かろうとしていないのに、分かりたいと主張するその傲慢さに気づきもしない。
嗚呼、まったくもってイライラする。
本音だって?
「正論を押し付けないでっ!!!」
私は叫んでいた。
「友達なら、何でも話せる。友達なら友達を好きな筈?」
呼び起こしたのはあなただ。
責任を取れとばかりに私は彼女に詰め寄った。
「ふっ、そんな訳ない」
私はこれまで誰にも見せたことの無い暗い笑みを覗かせ、冷然と断定した。
「友達なんて都合よく並べ立てるくせに、結局のところ何も、何一つ、見ていないじゃないか!!!」
毒を吐けば、少しばかりスッキリとした。
彼女は目を瞠り、やがて、にっこりと笑った。
「見てるよ。私は美沙のことが好き。揺るがなくそう認めてるもの」
彼女は私の腕に腕を絡めた。
私と彼女。
そのやり方は違っても、根本は同じだった。
私は誰も信用しないけれど、私自身が信用できる人間だということは彼女に保証できる。
彼女もそうだった。
私と彼女で違うのは、彼女は『友達』を求めていたことだった。
彼女から腕を引き抜き、独り言のように呟いた。
「私は絶対に心を裏切らない」
悪意の粒子に染まらない。
過去の三年間、成し遂げた事実がそれを証明している。
「ふっ、ははっ。奇遇だね。私もそうだよ」
彼女は凝りもせずに、また私に腕を絡める。
「だから信じたの。あなたは逃げないばかりか、私を知ろうと踏み込んだ」
私はもう、彼女から腕を取り返そうとはしなかった。
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