其の九

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其の九

とてつもなく、大大大冒険だった。 子供の頃、夢中で観た冒険映画のような。 知恵をしぼって数々の危機を乗り越えていく主人公に憧れて、いつか心躍る大冒険をしてみたいなんて思っていた。 そんな、ほぼ忘れていた少年の日の願望を神様が叶えてくれたのか。 図々しい事を言えば、どうせ叶えてくれるのならば、超能力の一つや二つぐらい使えるようになっていたかったが。 残念ながら、そんな訳もなく。 冒険に飛び出したのは、絞る知恵なんて何もない。体力もない。 現実逃避が好きな、二十五歳のしがないサラリーマンである、ただの宮下明人だった。 会社から帰宅途中に怖い魔物に命を狙われ、突然に日常から非日常への扉が開いてしまった。 それからは、洞窟に滝に山に。 大自然に圧倒されるような所を、追われながら走り抜いた。 最初は、自分の命が狙われているだけだと思っていた。 だが、騒動の奥には水虎という妖怪の野望があり、最終的には雨の神である雨師を呼ぶなんていう大事にまで発展した。 明人は始終足手まといでしかなかったが、最後の大役はどうにか果たせたので、少しは皆の役に立てたと思いたい。 目が回るような大冒険を終えて、心の整理なんて出来てないが、水虎の驚くべき野望を潰して、命を奪おうとした魔物からも身を守る事ができた。 本当なら、仕事帰りの雨の中で人生を終えていたのだ。 皆からしてみれば、人間一人の命なんてどうでもいいだろうに、当然のように自分を助けてくれた。 無事に生き延びられたのも、出会った妖怪達が見捨てずにいてくれたおかげだ。 大貉の千徳に、地上に旱魃をもたらす魃鬼に、滝の精霊である滝霊王。 雨の神様に仕えている雨降り小僧の清。 そして――。 意識が、ゆらりと浮上する。 「目が覚めたか?」 甘やかな声がすぐ耳元で発せられた。 「……たかおさん……?」 上手く頭が働かない。 どれぐらい寝ていたのか。 とても深い眠りから、久しぶりに目覚めたような感覚だ。 「あき……」 するりと頬を撫でられ、思わず大きな手に擦り寄った。 気持ちいい。 もう一度瞼を閉じて、温かい掌の感触に身を委ねてしまう。 優しい手は髪をくすぐり、首筋を滑る。 慈しむような指の動きにうっとりとしていると、徐々に頭が回ってくる。 そうだ。 ――僕、神降ろしが成功して、そのまま丘の上で――。 「あ……ご、ごめんなさいっ。僕、丘の上で爆睡しちゃって……!」 ばっちり目を覚ました明人は、慌てて声を上げた。 迷惑をかけたくないと眠気に抗った記憶はあるが、徒労に終わったようだ。 「よく眠れたようだな。体は怠くないか?」 「うん。気分はいいよ。また気を分けてくれたんだよね? 峻生さんの体調は大丈夫?」 水虎と戦い、深い傷を負っていた。 治癒力を高めて治ったなんて言っていたけど、絶対に無理をしていたと思う。  「俺もしっかり寝たから平気だ。疲れもとれて、あきの可愛い寝顔をたっぷり堪能できた」 穏やかに笑った峻生は、軽く明人の髪に口づける。 その静穏な様子に、明人はほっと息を吐いた。 「皆は……?」 「ここは俺の棲家だ。お徳ちゃん達はしっかり回復して、滝王の屋敷で酒盛り中だな」 「酒盛り? いいね。皆、元気になってて良かった……」 明人は、改めて周囲を意識した。 滝霊王の屋敷と同じぐらい上品な和室に寝かされている。 峻生の棲家も、立派な日本家屋なのだろう。 視界が薄暗いのは、外が明け方か夕方だからか。 目が覚めた時よりもわずかに暗くなった気がするから、きっと夕方だ。 そしてだ。 あえて意識しないようにしていたけれど。 フカフカの布団の中で明人と峻生は、ぴったりとくっついて寝ていた。 もちろん、雨やら泥やらで汚れきっていた体はきれいに清められ、肌触りのよい白い寝巻を身に付けている。 滝霊王の屋敷で眠ってしまった時と同様に、峻生が全て世話をしてくれたのだろう。 ありがたい。 心から御礼申し上げたい。 のだが――。 「えと、あの……峻生さん、もしかして、裸……?」 掛け布団をしっかりかぶっている為に真偽は不明だが、布越しに触れている感覚からして、峻生は何も着ていない気がした。 恐る恐る尋ねた明人に、峻生はさも当然だとばかりに頷いた。 「一緒に風呂に入ったからな。あきは裸を嫌がってたから、着せておいた」 「お、お風呂っ!?」 一緒に入浴だって? 峻生の爆弾発言に、明人は目を見開いたまま固まった。 「隅々まで、きれいに洗っておいた。ずっと雨の中で気持ち悪かったよな」 「あ、洗っ……!?」 信じられない!! 恥ずかし過ぎる!! 明人は寝返りをうって、峻生に背を向けた。 滝霊王の屋敷では、全裸で寝かされていたのだ。 すでに己の全ては見られている。 ――けどっ! 一緒にお風呂なんて! ああっ。知らない内に、あんな所やこんな所をしっかり見られて全身を洗われたなんて……考えるだけで恥ずかしくて、血液が沸騰しそう――! 「あきぃ。何でそっち向くんだよ」 「だ、だって、恥ずかしいよ……! 寝てる間にそんな……っ」 「汚いままにしておけないだろ? 俺も風呂入るんだから、じゃあ一緒にって」 「あ、ありがたいけど……でもっ」 羞恥に体を離そうとすると、肩を掴まれる。 抵抗していると、バタついた腕が峻生の胸に当たった。 「……いてっ!」 盛大に峻生が顔をしかめた。 「あっ……ごめんなさい、もしかして傷が!?」 腰辺りを血に染めた鵺の姿が頭をよぎる。 慌てて振り返ると、待っていましたとばかりに腰を掴まれて体を引き寄せられた。 「た、峻生さんっ!?」 「嘘。これぐらいで痛い訳ないだろ~?」 「……っ」 「それに、心配しなくても傷はちゃんと完治してるって。これは嘘じゃない」 薄闇の中で、峻生がいたずらっぽく笑った。 「騙すなんてひどいよ。はなしてっ」 峻生は、明人の滑らかな頬に触れながら、鳶色の瞳を見つめた。 「無理。もう離せないな~」 「…………」 唇を引き締めて無言になる明人を、峻生はあやすように軽く抱き寄せた。 「そう怒るなって。服はちゃんと着せたんだし」 「そういう事じゃないっ」 たわいない言い合いをしていると、完全に日が沈んだ。 室内が夜になると、枕元にある行灯に独りでに火が灯り、優しい光が明人達をほのかに照らした。 「……もう夜か。明かりは灯したが、暗闇は怖くないか?」 峻生が気遣わしげに問う。 辻の魔の闇に何度も捕らわれた明人の心を、心配してくれているのだ。 「平気。夜とか暗い所が怖くなったりはしてないと思う」 「そうか。嫌な気分になれば、すぐに言えよ」 「うん。ありがとう」 礼を言いながら、ためらいがちに峻生の背に腕を回す明人。 その愛らしい仕草に峻生はぎゅっと心を掴まれて、胸の中にいる美しい青年を強く抱き締めた。 「……こうやって明人が俺の胸の中にいるの……すごい安心するな」 峻生は明人の髪に顔を埋めて、愛しい人の香りを強く吸い込んだ。 「……ぼ、僕も……」 逞しい男の体に包まれて、今更ながらに胸が鼓動を増していく。 顔が熱い。 それを隠すように、明人は峻生の裸の胸に頬を押し当てた。 温かい肌の感触に、男らしくもどこか甘い峻生の匂い。 ゆっくりとその匂いを鼻腔に満たせば、体の芯がとろけるような心地良さが明人を包む。 「……心臓がすごい事になってる」 激しく高鳴る鼓動を指摘され、明人は一層恥ずかしくなる。 「だ、だって……」 「だって?」 穏やかに背を撫でられながら促され、面映ゆさに心が爆発してしまいそうだ。 「こ、こんな風に人と、その、触れ合うのは初めてで……」 「……キスも、俺が初めてだったもんな」 峻生が明人の頬に唇を落とす。 その口付け一つだけでも、峻生の優しさと愛情がひしひしと伝わってくる。 「僕……」 「ん?」 「僕ね、ずっと寂しかったんだと思う。親しい友達とか、その、恋人とか全然いなくて。家族と仲はいいけど、やっぱりどこか一人だなって。そう感じるなら、努力して新しい人間関係を築けばいいのに、それもせずに勝手にすねてさ。隣の芝生は青いなって、周りの人を羨ましがったりして。仕事や、人生そのものから顔を背けてた……」 仕事は嫌だと現実逃避してばかりで、そのくせ人生=仕事だと決めつけて。 空しいと嘆いている自分こそが、そんな空っぽな人生を築き上げていたというのに。 「でも……今回の事で、自分の人生がどれだけ大切で価値のあるものか……気付く事ができたんだ。命をかけた大冒険をしないと気付けないなんて、本当に馬鹿だけど……」 話し始めたものの、まとまっているとは言えない心の中を整理しながら言葉にしていくのは、本当に難しい。 しかし、明人の背を撫でながら拙い言葉を静かに聞いてくれている峻生に励まされ、ゆっくりと話し続ける。 「けどね、こんな……人生の価値にすら気付いてない何の取り柄もない僕を、皆が全力で守ってくれて……沢山の笑顔をくれて……。本当に、本当に、嬉しかったんだ」 「自分を卑下するのはよくない」 「だって、僕は……逃げてばかりで、何も積み重ねてない――」 「それは違う。人生で積み重なるのは、目に見えるものや、分かりやすい結果や充実感のあるものだけじゃない。目に見えない実感のないものだって沢山ある。逃げているなんて思っていても、だ。明人にだって積み重ねたものがある。俺達はそれに惹かれて、助けようと思った。好きになったんだ」 峻生の手で顔を引き上げられた。 真摯な光を宿す紺碧の瞳が明人を見つめる。 「あきは、他の人間とは魂の輝きが違う。美しい輝きだ。人も妖怪も引きつける。そんな魂を見せつけてたら、色んなもんに襲われ続けるからな。自分を守る為に、輝きを隠す膜を無意識に作っていたんだ。だが、その膜で変なものが寄ってこない変わりに、自分の心に対して鈍感になってしまった。そのせいで、自分の人生に今一つ実感がなかったり、自信がなかったりしてる」 「膜……?」 魂の輝きに膜――? そんな事が自分の身に起こっているなんて、想像すらできないが。 心底不思議そうな顔をする明人に、峻生は小さく笑った。 「でも、これからは違う。今回の騒動で膜は消えたからな」 「え……!?」 「心配しなくても、俺がいるから何でもないさ。逆に、今まで膜越しに見ていたものが、鮮やかにあきの魂を彩るだろうな。大きく生き方が変わるかもしれないが……その中で一緒に色々なものを積み重ねていこう。見えるものも、見えないものも」 「た、峻生さん……」 「明人の、何より大切で価値のある人生に、寄り添わせてくれ」 「…………」 ――あ、え? こ、これって……――! 突然のプロポーズに、明人は半ば呆然と峻生の顔を見つめた。 「……あ、の……」 峻生は明人の白い手を掴むと、指先に口づけた。 「あきは俺の事、嫌いか?」 「ま、まさか」 「じゃあ、俺の獣姿を見て、気持ち悪くなった?」 「違うよっ。そんな事、少しも思ってない」 明人は即答した。 「ただ、自分の気持ちが信じられなくて……」 行灯の光を反射して、優しく輝く紺碧の瞳をまっすぐに見る。 理知的でありながら大胆で野性的で、驚くほど精悍で美しい人。 この人は、強大な妖力を持つ大妖怪の鵺で。 明人とは、桁違いの時間を生きている。 ずっと沢山の時間を共に過ごしているような気がするが、出逢ってまだ数日。 何もかもがあまりにも明人とかけ離れているというのに。 短い時間で、自分でも信じられないぐらい峻生への想いが育っている。 こんな素敵な人に恋をしてもいいのか。 そして、愛情を受け取ってしまってもいいのか。 「明人」 大切な宝物のように優しく名を呼ばれる。 「信じてくれよ。俺は一目見た時からあきが好きだ。そして短い時間だが苦難を共にして、心に触れて……あきの隣で生きていきたいと思った」 「峻生さん……」 そうだ。 自分だって、一目見た時から惹かれていた。 心がこの人しかいないと、峻生を求めていたのだ。 「教えてくれ……明人の気持ち」 「僕も……峻生さんが好き……妖怪とか同性とか関係ない。ずっと一緒にいたいよ」 峻生の表情が喜びに満ちる。 「あき……俺の明人……」 深く見つめ合うと、心が溶け合って一つになっていくような幸福感が、胸の奥からどんどん湧き上がってくる。 ――嬉しい。峻生さんと出逢えて、気持ちを通じあわせて……こんな幸せがあるなんて――。 確かな愛情に感じ入って潤む鳶色の瞳に吸い寄せられるように、峻生は胸の中にいる美しい人に唇を寄せた。 「……ぁっ」 熱く柔らかい唇が触れ合い、吐息が交わる。 ゆっくりと馴染ませるように唇を吸われ、食まれ、背筋に甘い痺れが駆け上がる。 思考がとろりと溶け、力の入らない手で峻生の胸にすがりついた。 「んぁっ……」 歯列をねっとりと舐められ、隙間から舌が口腔内に入り込む。 上顎をくすぐり、舌を絡め取り――。 濃厚な峻生の口付けに腰の奥が熱くなっていく。 「ぁふ……っん……たかおさ……っ」 口腔内を余す所なく貪り尽くされ、飲み込みきれなかった唾液が口の端から流れ落ちる。 「キス、そんなに気持ち良かったか……?」 峻生が流れた唾液を舐め取りながら、明人の中心に布の上から手を這わせる。 そこは熱烈な口付けで欲望がきざしていた。 「……んあっ……ちがっ……っ」 「何が違う?」 布越しに緩く撫でられるだけで、腰が切なく揺れるのが止められない。 「だ、だめっ……さわったら……っ……ぁあぅ」 「だめには見えないけどな」 峻生は快感と羞恥に身を震わせる明人の首筋を舌でなぞりながら、逸る気持ちを抑えて寝巻の帯に手をかける。 緩く結んでいた帯はすぐに解け、寝巻の襟をめくれば、珠のような美しい体が露わになった。 滑らかな絹肌はうっすらと桃色に染まり、行灯の光を吸って艶めいている。 明人の体は既に隅々まで目に焼き付けているというのに。 ほのかな行灯の光の下。 淫欲の芽生えに戦慄く無垢な美青年の姿に、これでもかと欲望が煽られる。 「優しくできる自信がなくなってきたな……」 衣を脱がせただけでこんなに気持ちが高ぶるなんて、まるで情欲を知ったばかりの子供のようだと苦く笑う。 「……その、僕、こういう事が初めてで、何も分からないけど……」 明人の手が、静かに峻生の頬に伸びる。 「……た、峻生さんの好きにして欲しい。峻生さんだったら、僕……」 鳶色の瞳に行灯の光が溶けて、しっとりと輝く。 「あきぃ、あのなぁ……」 荒々しい情欲が胸の底からせり上がり、喉の奥が鳴る。 「……煽った事、後悔すんなよ……っ」 「え?」 峻生は噛みつくように明人の薄紅色の唇に口づけた。 「ん……ふぁっ……ぅぁ」 淫らな水音をたてて舌を吸われ、寝巻をはぎ取るように脱がされる。 「……誰も触れてないなんて奇跡だな」 一糸纏わぬ姿になった明人の体を大きな手が這い、唇が鎖骨を辿っていく。 どこを触れられても気持ち良さが体を行き交い、腰が甘く疼いて仕方ない。 「っぁ……たかおさ……んっ」 熱い舌が胸を舐め、乳首をちゅっと吸い上げた。 「あっ……ん」 小さな紅い尖りを執拗に舐めすすられ、少しのむず痒さが快感へと変わっていく。 「やぁっ、そこ、すわなっ……っん」 「いやじゃないだろ? こんなにして……」 完全に勃ち上がり、透明な蜜を零しながら震えている明人の薄桃色の芯柱に、峻生は触れた。 「んああっ……っ」 上下に緩く扱かれるだけで、自慰と比べものにならない気持ち良さが身体に襲いかかる。 「りょうほう、だめっ……」 乳首を強く吸われながら、峻生の大きな手が幹を擦り、根本の袋を揉む。 二つの快感が腰の奥で暴れて、明人は細い腰をくねらせた。 「んあっ……っはあっ……」 恥ずかしいから声を出したくないのに、どうしても我慢ができない。 欲情しきった声と共に、先走りの蜜も止めどなく溢れて、峻生の手をぐっしょりと濡らしていく。 紅い二つの尖りを苛んでいた舌が、徐々に肌を啄みながら胸から腹に下りて。 その下は――。 「た、たかおさん、そこは、だめっ……ぁあっ」 止める明人を煽るように、震える芯柱を口に含まれて、大きく腰を揺らした。 「き、きたないからっ……はなして……あ、あぁっ」 返事の代わりに亀頭を強く吸われて、思わず峻生の髪を掴んで声を上げる。 熱い粘膜に飲み込まれ、激しい快感が下肢を直撃した。 「やぁっ、はぁっ……んふぁ……ぅぁっ」 幹を舐め扱かれ、裏筋をねっとりと唇で刺激される。 口淫なんてとんでもない事をされているのに、理性がはるか彼方に消えていき、快感でいっぱいになる。 「ぁっん……たかおさ……ん、あぁっん」 根本の袋を揉みしだかれながら、鈴口を舌先でつつかれ唇で吸い付かれる。 激しい快感の波に、明人は後頭部を枕に擦り付けて、閉じる事を忘れた口から乱れた声を漏らし続けた。 「気持ちいい?」 先走りの蜜と唾液にぬめる幹を舐め上げながら、峻生が問う。 「ん、ふぁっ……きもちいい……っあん……きもちいいよっ……んんぁ」 峻生の顔を乳白色の太腿で挟み、腰を震わせながら、明人が荒い呼吸の隙間に言葉を紡ぐ。 行灯の優しい光に明人の恍惚とした表情が、快感にしなる体が、いやらしく浮かび上がる。 峻生は口角を上げて、そのなまめかしい姿態を見つめた。 「じゃあ、もっと気持ちよくなろうな」 そう言って、峻生は明人の芯柱を根本まで飲み込むと、快楽の中心を強く吸って締め付けた。 「んぁぁっ……あぁっ、んっ……っあ、そんなっ……!」 派手な仕草で溢れる蜜をすすられながら、唇と舌で激しく扱き立てられて、腰に絶頂の欲が押し寄せる。 「……んぁあっ……も、もうでる……っ……でちゃうからっ……はなし……っ」 峻生の顔を下肢から離そうとするが、力が入らない。 下腹部に熱が凝縮して、何も考えられなくなる。 「で、でちゃ……っんぁ……あぁぁっ……っ!」 濡羽色の髪を強く掴みながら、明人は峻生の口内に思いきり白濁を放出した。 優しい光に照らされる部屋に、明人の荒い呼吸がしっとりと響く。 脱力する明人に見せつけるように、峻生は口内にある欲望の残滓をゆっくと飲み込んだ。 「た、峻生さんっ。そんなの飲んだら……っ」 峻生の口内に出してしまった事だけでも、とんでもないのに。 何の躊躇いもなく己の精液を飲まれてしまった。 ――峻生さんが僕の精液を……信じられないっ――! 見つめ合ったまま呆然とする明人に、峻生は頬を緩めた。 「濃くてうまかった」 「う、うそっ……!」 羞恥と居たたまれなさで狼狽える明人を見て、峻生は笑みを浮かべた。 「こんな事で恥ずかしがってたら、この先が大変だ」 峻生の手が細い腰を撫で、明人の体を反転させる。 「そのまま、膝を立てて」 「……え?」 つまり、四つん這いになって、峻生に尻を向けろと言われているのか。 ――そ、そんなの――。 「恥ずかしいよ」 「今更だろ?」 峻生が明人の腰を持ち上げて膝を立たせる。 「ほら、腰上げて」 「…………」 尻を撫でられながら促され、ゆっくりと腰を上げる。 「そう。いい眺めだな」 尻たぶを揉みしだきながら峻生が言う。 自分でも見た事のない秘部を峻生の視界に掲げるように晒していると思うと、恥ずかしさが心をかき乱す。 けれど、それ以上に峻生との交わり、快楽への期待が身体を支配する。 「た、峻生さん……」 「そんなに緊張するなって。力抜いて。あきには、恥ずかしがる所も汚い所もない」 そう言葉を紡いだ峻生の唇が、明人の弾力のある白い尻を滑る。 「全部きれいだ……」 「……ぁっん……」 峻生の顔が尻の狭間に埋まり、鼻先が柔肉を割り開く。 熱い吐息が秘口をくすぐって、舌が狭間を執拗に上下する。 「やっ……っぁあ……」 尻や太腿を撫で擦られながら、二つの玉の裏側から会陰を舐め吸われて、吐きだしたばかりの劣情が、再び膨らみ始める。 「はぁっぅ……んふぁっ……あっんん」 無意識にまろい白尻を揺らして快感を求める明人を前に、峻生の下肢が痛いほど高ぶる。 唾液に濡れた明人の奥ゆかしい蕾は、峻生の情欲を待ち望んでいるかのようにヒクついていた。 「あ、ああっ……っ!」 峻生の舌先が蕾を少しずつ押し開く。 秘口の皺を一つ一つ丁寧に伸ばすように舌が蠢き、明人の体内に入っていく。 「た、たかおさっ……そんなっ……んあっっ」 中を峻生に舐められている。 衝撃的な感覚に、腰が震えた。 後孔に熱く柔らかい舌が出入りし、粘膜同士がぬめり交わる。 水音を響かせながら蕾を押し広げられ、腰の奥を燻ぶらせる感触に、明人は甘く鳴いた。 「も、もう舐めないで……っぁ……」 「……もうちょっと解さないとな」 ふやけて膨らんだ蕾に、峻生は人差し指をぷつりと挿入した。 「あ、あ、んぅ……ぁあっ」 ゆっくりと抜き差しを繰り返して、肉筒を広げられる。 違和感などすぐに消え、峻生の長い指が粘膜の壁を擦る度に、腰の奥がきゅっと切なくなる。 「あきの中、すごい締め付けだな……」 「いわないでっ……っんん」 意識すると、逆に強く締め付けてしまう。 ぎゅうと人差し指を食い締めて、明人は腰を振る。 気付けば挿入される指が二本、三本と増えて、バラバラに明人の中をかき乱していた。 「はぁぅ……ぁふっ……あ、んっ!? や、やぁっ、んあっ」 峻生の指が、明人の前立腺のしこりを掠めた。 鋭い快感が背筋を駆け上がり、明人は背をしならせて尻を揺らした。 「ここ、気持ちいいな。ほら、こうするといいだろ?」 指の腹でしこりを押し擦られ、下肢で欲望が火花を散らした。 「ひぁっ、んぅ……あぁぁぁっ……い、やぁっ、ふぁっ……そこ、だめっぇぇ」 全身に気持ち良さが襲ってくる。 峻生の指を咥え込んだまま、頭を振り乱す。 腕に力が入らなくなって、枕の上の顔が落ちた。 逃げ場のない快感が、身体を沸騰させる。 「も、だめ……っあんっ」 再びしっかりと勃ち上がった芯柱は、先端から濃い蜜を零し続けて布団に糸を引いていた。 「だめ? まだまだ。本番はこれからだ」 こんなにも気持ちいいのに。 まだこの先に、未知の快楽があるかと思うと、少し怖くなる。 そっと後孔から指を引き抜かれると、尻に峻生の唇が何度も降ってきた。 「あき……」 甘く名を呼ばれると、尻に熱いものが宛がわれたのを感じた。 峻生の雄の欲望。 先端が少しだけしか触れてないのに、激しく滾っているのが分かった。 「峻生さん……」 身体中が、峻生の愛情と欲望を求めている。 もう、それしかいらないとでも言うように。 「僕……峻生さんが欲しい……っ」 明人は腰に力を入れて、改めて尻を峻生に掲げて押し付けた。 その大胆な仕草に、峻生は生唾を飲み込んだ。 「明人……っ」 濡れてヒクつく蕾を押し広げて、峻生の強直が中に挿入ってくる。 「ん、あ、ああぁっ……ぅんあっ」 強い圧迫感に、明人は布団を強く握りしめた。 「……ふぁ……あんっ……はぁっ……」 熱く大きな欲望が少しずつ、少しずつ、肉筒を満たしていく。 「……あと、ちょっとだ……っ」 「ん、んんっ……あっんぁ……」 時間をかけて根本まで挿入すると、峻生は労わるように明人の腰を優しく撫でた。 「たかおさ、んっ……最後まで挿入った……?」 「ああ……。しばらく、このままでいような」 ぴったりと挿入したまま、峻生は明人の芯柱に手を伸ばした。 「っあ……ん……っ」 半ば力を失っていた幹を撫でられ、腰の奥でもぞりと熱が動いた。 「ここは気持ちいいだろ?」 亀頭をくすぐられ、幹を丁寧に扱かれる。 快感を拾い始めた身体は徐々に柔らかくしなり、峻生の強直を甘く締め付ける。 「……っ……最初から、こんなにいやらしく締め付けられたら、困るな」 「……んあっ……そんなの知らなっ……ふぁっ」 先走りの蜜を塗りこめるように、長い指が芯柱に絡み、劣情を擦る。 明人の中が淫靡にうねるのを感じて、峻生は堪らず腰を動かした。 ズズ、と体内にある熱塊に肉襞を引っ張られ、背筋に悩ましい刺激が走った。 「い、やぁっ……あぁぁっ、ん、はっぅ……ぁ」 前を扱かれながら、中をねっとりと味わい尽くすように、抜き差しされる。 いつしか後孔の圧迫感が消え、激しい快感が明人の理性を強引に攫っていった。 「あんっ……っふぁ……んはっ……ぁああ……」 雄の欲望に、淫らがわしく蠢動する粘膜が絡みつく。 「……ここでも、よくなろうな」 柔らかくうねる内壁をあやしながら、峻生が己の亀頭を前立腺のしこりに擦りつけた。 「ひっ! やぁぁっん……っそこ、こするの、んぁ……だめだってっ……はぅっ」 圧倒的な質量と熱の塊に快楽のツボを刺激され、明人は激しく喘いだ。 腰から強烈な気持ち良さが全身に流れていく。 「あ、あぁぁっ……ふぁっ……んはぁぅ……んあっ……」 峻生の腰の動きが徐々に速く強くなって、内壁が甘く熱烈に抉り穿たれる。 抜き差しの度に、前立腺のしこりも押しつぶされ、その度にすさまじい快感が降り積もっていく。 「……も、もぅ、んぁっ……ぁぁあっ……すごいきもちいいのがきて……おかしくなるからぁっ……!」 許容を超えた快楽に怯えて無意識に逃げる明人の腰を引き寄せると、峻生は激しく腰を打ち付ける。 「俺も……すごいおかしくなりそうだな……」 体内を大きな強直で蹂躙され尽くされながら、欲望に震える芯柱も強く扱き上げられる。 「やぁっ……ひ、あっ……あ、あ、んっあぁぁっぁ……っ!!」 快感に飲まれて、頭の中が真っ白になる。 明人は背をしならせると、腰を震わせながら盛大に吐精した。 「ん……ぁ……はぁっ……はぁっ……」 全力疾走したように呼吸が荒くなり、思考が繋がらない。 「まだ終わらないからな」 「んぁ……?」 心地良い絶頂の余韻に浸っていると、足と腰を掴まれて体を反転させられた。 「ひゃぁっ……あっん」 体内で峻生のものが擦り回って、敏感になっている体がビクビクと跳ね上がった。 「あき……」 雄の欲望を露わにした紺碧の瞳と、視線が交わる。 獰猛な目の輝きが、明人の心を捕らえた。 「峻生さん……」 ああ――。 胸の奥底から、根源的な欲求が湧き上がる。 食べられたい。 この男に。鵺に。 余すところなく食べられたい――。 明人は己の秘口を貫く男に両手を伸ばした。 「全部、食べて……」 「…………」 艶やかな栗色の髪を乱して、乳白色の絹肌は快感に染め上がり。 紅い乳首をぷっくりと膨らませた胸は、大きく上下しながら行灯の光を弾いて男を誘っている。 「明人……」 淫らに開かれた滑らかな太腿は震えながら峻生の腰を挟み、その奥の円やかな尻は雄の強直を咥え込んで、ぬかるみ悶えている。 その姿の、なんと淫らで、いやらしく、美しいことか――。 峻生は獣じみた欲望に、全身が支配されるのを感じた。 唾液に濡れた唇に何度も名を呼ばれ、潤む鳶色の瞳が、淫靡な視線で大妖怪の心を絡め取り――。 「あっ、んっ……っ」 甘い喘ぎを聞くだけで狂暴な欲が溢れ、下肢にわだかまっていく。 峻生は殺し文句を紡ぐ可愛らしい唇に、噛みつくように口づけた。 「んふぁ……はふっ……んむ……」 唇を吸い、歯列を舐め、舌を絡めて唾液を吸う。 口付けの隙間に甘い吐息を零す明人の熟れた孔に、これでもかと腰を打ち付けた。 「あっああああっ……んん……ぅあっ……はげしっ……あんっ」 大きく脚を割り開かれ、恥骨を擦りぶつけるような激烈な抜き差しが、繰り返される。 奥の奥まで突き刺されて、明人は過ぎた快感に、泣き喘ぎながら身をのけぞらせた。 「あき……明人……明人」 口腔内を蹂躙され、舌に染み込み流れる峻生の唾液を、何度も飲み込む。 恋しい人の体液が己の体内に染みわたる、この歓び――。 「たかおさ……っ……んああっ……っふぁ……ひっぁ」 こそぎ取るように前立腺を摩擦されて、怖ろしいほどの快感の上昇に、必死に峻生にしがみついた。 「っあぁっ……きもちよすぎてこわいよ……っ」 「……俺と一緒に、限界を壊して気持ちよくなろうな」 うねる内壁を小刻みに穿ちながら、峻生が心地良さそうに微笑む。 「それに……食わせてくれるんだろ?」 掠れた声でそう問われると、鼻先が触れ合う距離で紺碧の瞳に見下ろされる。 「この髪の毛一本から――」 峻生の手が栗色の髪に。 「足の爪先まで……」 そして足先の爪をくすぐる。 「全部、俺のものだ……っ」 「峻生さんっ……」 広い胸を強く抱き締めれば、それ以上の力で激しく抱き返された。 「んやぁっ……んふぁ……ぁあんっ……はぅぁっ」 夜の気配に満ちた部屋の中。 行灯の光に浮かび上がる布団の上で、二つの裸体がいやらしく交わっている。 はしたなく喘ぎ声を漏らし続ける乳白色のしなやかな体は、大妖怪の欲望を根本まで銜え込んで淫らに悶え、歓喜の涙を流している。 気持ちいい。気持ちいい。 手足を峻生に絡みつかせ、明人は愛される幸福感と快感に酔いしれていた。 もう己が何度吐精したのか分からない。 快楽の極みに連れていかれ、去る事のない絶頂に溺れている。 「んあああっ……ひっ、ぁっ……きもちいいのおわらなっ……んっ、たかおさ……たかおさんっ……っんぁっ」 狂ったように名を呼べば、流れる涙を舐められながら一層強く秘口を攻めたてられる。 「あき……あきに逢えて、本当に良かった……」 「ん……ぼく、も……僕もだよ……っ」 突然魔物に狙われ、とんでもない騒動に巻き込まれた。 いつ命を失くしてもおかしくない状況で峻生と出逢い、何度も助けられて傍にいるうちに恋に落ちて。 今はこうして身も心も一つにしている。 美しく凛々しい、こんなに素敵な峻生と自分が想いを通じ合わせるなんて、とんでもない奇跡だ。 「峻生さん……っ」 世にも得難く、かけがえのないこの幸福――。 明人はその幸せを強く強く抱き締めた。 ――僕の、僕だけの峻生さん――。 「あき……」 激しく交わりながら名を呼ばれると、世界は二人だけになる。 「明人……愛してる……俺には、あきだけだ」 見つめ合っていた紺碧の瞳が、新たに溢れる幸せの涙でにじんで見える。 「うん、うん……っ。僕も、愛している……んぁぁぁっ!」 ぬかるみうねる肉筒に強直が勢いよく突き刺さり、明人の腰に淫らな電撃が走った。 「ひっ、やぁぁぁぁっ……ああんっ……んあぁ……」 立たされ続けている快感の絶頂に、頭が蕩ける。 突くほどに肉筒が強く締まり、峻生は放出の欲求に眉を寄せる。 「……っ……あき、中に――」 尻を鷲掴まれると、最奥まで深く穿たれる。 「あぁぁっ、たかおさんっ」 甘い声を出しながら腰を震わせる明人の奥の奥へと、峻生は白濁を吐きだした。 「あ、あ、あぁっ……」 大量に注がれる熱い欲望を、明人は背をしならせながら受け止めた。 「はぁっ、はぁっ……んっ……はふ……」 濃厚な交わりの余情に、体が上手く動かない。 腹に触れると、己の出した白い飛沫が広がっていた。 一体、何度放出したのか。 「あき……」 微笑む峻生が唇を吸ってくる。 もはや唇さえ上手く動かないなと思っていると、どんどん口付けが濃厚なものになっていき、抜かれていなかった峻生の強直が、再度体内で大きくなっていく。 「た、峻生さん……そ、そんな……っ!」 再び激しい交わりが始まる予感に、明人は慌てる。 「……これで終わる訳ないだろ? まだ夜は長い。たっぷりゆっくり食べさせてくれよ……な?」 雄くさく笑む峻生を前に、拒絶なんてできやしない。 「……きれいに食べてね」 明人はそう言って、世界一愛しい男の首に腕を回した。
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