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かばん
かっちゃんはなんでも持っている。
「なんでそんなに持ってるの?」
ときくと、
「え、だって……」
と言ってきゅっと口をつぐむ。
この前の学校の帰り道、突然の雨に困っていたらスッと折りたたみ傘を取り出して、さも当然といった様子でぴちゃぴちゃと歩きはじめた。
「いつも傘持ってるの?」
ときくと、
「いつもは持っていないよ」
と答えた。
駄菓子屋さんでジュースを買ってから瓶のフタが開けられないことに気付いてまごまごしていたときも、
「はい」
と栓抜きを差し出してきた。
驚いて
「なんで持ってるの?」
ときくと、
「いると思ったから」
と答えた。
夏休みに山へ行った。
バスの中でちょっと寒いなあ、と思っていたら、かっちゃんがカバンから膝掛けを出してくれた。
「ありがとう。でもなんで持ってるの?」
ときくと、
「山は夏でも冷えるからねえ」
と言った。ちょっと楽しそうだった。
ある日かっちゃんが手ぶらで来たので、今日こそは、と思って帰りにちょっと遠回りをして駄菓子屋さんでまた瓶のジュースを買った。
「栓抜き持ってる?」
ときくと、
「持ってないけど開けられるよ」
と、お財布から十円玉を取り出してパシュッと開けた。
かっちゃんはなんも持っていなくても、なんでも持ってるんだなあ。
遠足で鎌倉へ行った。
お賽銭の五円玉がなくてどうしようかなあ、と思っているとかっちゃんがくれた。
他の子も五円玉がなくて困っていたので
「かっちゃんが持ってるよ、かっちゃんに両替してもらいなよ」
と言うと、かっちゃんはあわてて
「持ってないよ」
と言った。ちょっと怒っていた。
かっちゃんはなんでも持っている。
「なんでそんなに持ってるの?」
ときくと、
「え、だって……」
と言ってきゅっと口をつぐむ。
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