3人のオオカミ

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3人のオオカミ

「あれ? 鍵が開いてる?」  僕が帰る時間帯はいつも誰もいない。今日は誰か先に帰っているのだろうか? そんな事を思いながら、茶色の大きな扉を開いた。  玄関がいつもより綺麗だ。誰か掃除した? 何足も出しっぱなしだった靴が、今は3足。綺麗に並べられている。僕は玄関に上がり、何となくその隣に自分の靴を並べた。スニーカーや靴は僕より大きい。あれ? みんなの靴ってこんなに大きかったっけ? 「お帰りなさい。」  突然後ろから見知らぬ声がして飛び上がった。振り向くと、茶髪の見知らぬイケメンがにっこり笑ってリビングからこちらに歩いてくるところだった。 「えっ? あ、あれっ? 北村さん……でしたっけ?」  明らかに違うと内心思いながらも、見当違いな言葉を吐いていた。茶髪の人はクスクス笑ってる。 「違いますよ。わ、五十嵐……さん、初めまして。さ、こちらにどうぞ。」 『わ? 私?』  今日初めて会ったイケメンが噛んだのが可笑しくて、ニヤニヤ笑うを止められなかった。リビングに入るまでは……。 『!?』  リビングにはピカピカの新品のソファが置いてあった。今まであったボロい2人がけのソファはどこに行った? 3人がけと、1人がけの立派なソファが2つ。今までなかったテレビまである。  それよりも驚いたのはソファに見知らぬ男がもう2人座っていた事だ。僕の方をニヤつきながら見ている男。背は僕より少し高いぐらいか? 薄い茶色の髪を襟足を長くカットして……。女の子みたい? 中性的というんだろうか? 色白の肌に艶やかな唇……あれ? Tシャツにジーンズ姿の……女?  その奥に仏頂面でこちらを睨んで座っている男。こっちは背が高いぞ!? 真っ黒な髪だけど……重くはない。笑えば、王子様に見えるかも……。いや、笑えるのかどうか知らんけど。 「初めまして。今日から同居することになった僕は『ユウ』、手前に座っているのは『リョウ』、奥は……『トモ』だ。」 「はぁっ? え? えっと、田中さんや北村さんたちは?」  これは夢だ。昨日も田中くんと普通に挨拶したし。引っ越すなんて聞いてなかったぞ? 「北村さんと佐藤さんは、2週間前に引っ越したよ。田中君は昨日……まさか知らなかったとか?」  昨日? 昨日は……朝起きたら田中くんと廊下で会って……。おはよって挨拶して……。あれ? あの時の田中くん、大きなボストンバッグ抱えてた? 今朝は……会ってない。 『そっか。』  今日からの教育実習でテンパってた僕は、田中くんと雑談する余裕すらなかったんだ。開いたままの口を閉じ、背中の鞄を降ろした。今日は借りてきたタブレットや教科書、資料が入っていてかなり重い。風呂にゆっくり入って、部屋で明日の準備をして……僕の計画が足元から崩れていくのを感じていた。
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