オオカミは1人だけ

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「ほら、行こう。」  ユウとリョウの姿を眺めている間に、白いTシャツを着てウロウロと歩き回っていたトモが僕に近づいてきた。 「へっ? どこに?」 「俺の部屋。」  思わず立ち上がった僕の顔を見下ろして、トモが呟くのを聞いた。えっ? トモの部屋? トモの部屋でピザを食べて……そして? 「察しが良くて助かる。」 「うわわわっ、トモっ! トモさん! お、下ろして!」  固まった僕をトモが担ぎ上げる。これじゃあ僕が米俵になったみたいじゃないか! 僕は歩ける。い、行くから! ついて行くから! 「ダメ。ほら力を抜いて。落ちるぞ。」  降りようとする僕の膝裏をガッチリ押さ込み、トモが立ち上がった。「落ちる」という言葉に急に恐怖を感じて力を抜く。近くでユウが「わはははっ!」と声を上げるのを聞いた。 「おいっ、トモっ!」 「なになに? リョウ、羨ましいのか? じゃあ俺はこっちだな。」 「うわっ! ダメだ! それだけはダメっ!」 「ほらほら煩いぞ?」  トモに担がれてリビングを出ようとしている僕たちの後ろで、チュッと派手なリップ音が響き、リョウが黙り込むのが分かった。何かが起こっている。そして何かが起ころうとしている? 下になった頭に血が溜まって行くのを感じる。それに伴って僕の顔も熱くなっていくのがわかった。 『トモのTシャツ、どうして白なの?』  ダークブラウンの床や階段、そしてトモの白いTシャツの裾を眺めながら、そんな事をボンヤリと考えていた。いつもトモは黒や濃紺のTシャツを着ることが多い。白といえばリョウだ。あの変な英字や顔のプリントがついてるTシャツ。そんな事を考えているうちに、トモの寝室にたどり着いた。 「はい、着いた。」  ドサリと落とされたそこは、トモの部屋のベッドの上だった。体を起こして思わず周りを見渡す。田中くんの部屋だったときにはシングルサイズのベッドにこたつ、そして物が煩雑に置かれていた。でも今は……。 『何もない?』  東側を頭に置かれた少しだけ大きなベッドは、床と同じダークブラウンのシーツや布団カバーで覆われている。ベッド脇にはサイドテーブル。いつの間にか持ってきてあったピザの箱や、ペットボトルが置いてあるけど、後は壁際に少しだけ服がかけられているだけで、何もなかった。 「取り寄せたサクランボをユウが持ってきてくれた。山形産。食べるか?」 「えっ? 食べる!」  トモがサクランボの入った小さなガラスの器を取り上げて聞いてきた。サクランボなんて食べるのは久しぶりだ。山形県のサクランボなんて有名じゃないか。お腹が空いた。僕は迷わず答えた。 「じゃあ目を瞑って?」 「えっ? あ、あーーン。」  トモがサクランボを取り上げたのを見て目を瞑り口を開ける。口の中に放り込まれたものを噛み砕く。それは甘くて美味しい……。 「トマト!?」 「はははっ!」  いきなりトモに押し倒されて唇を奪われた。数回咀嚼しただけのトマトがトモの舌で掻き回される。僕は何が何だか分からずに翻弄された。口の中のトマトがいつの間にか無くなって、チュッとリップ音が響いた。トモの唇が離れてく。 「どうしてクマのパジャマを着てないの?」  耳元で囁かれたトモの言葉に、羞恥で頭の中が沸騰しそうだった。風呂上がりにみんなと食事を取る事を想定して、ジーンズに青い開襟のシャツを羽織っていた。 「あのパジャマを脱がしたかったのに。」  そう言いながら、トモが僕の首元にキスをした。そこから全身に痺れが広がった。いつか感じたものと同じ……。いつの間にか僕の体に乗り上げるようにして、顔じゅうにキスをされていた。そして気がつくとシャツのボタンが外されて、トモの大きな手が僕の腹に置かれていた。  
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