オオカミは1人だけ

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「久しぶり。わー先生。」  リョウがニヤつきながら僕を眺める。そういえば、このニヤつき具合はよく見ていた。髪の毛が長くなってアッシュブラウンに染め上げられているから気づかなかったけど……。髪の毛を黒くしてもっと短く……うん、もう加納にしか見えない。 「お前っ! そ、そっ、その髪の毛の色! どうしたんだ!?」 「やだなぁ、カズ。今は僕の方が年上なんだぜ? もうすぐ27歳。会社は基本的に自由だからさ。仕事さえできれば。」  自分の前髪に手をやり、目の前に持ってきて眺めながらリョウが呟いた。そうだ、この3人は12年後からやってきたんだ。12年後といったら僕は33歳。どこで何をしているのだろう? 「俺も染めてるしね。」  目の前のユウに目を向ければ、ユウが自分の栗色の髪の毛に手櫛を通しながら、微笑んでいた。 『うわっ! これが菊池? 菊池なのか?』  1番面影がないのはユウだ。中学生のユウは確かにストレートの真っ黒な髪をして、日に焼けた肌を晒して、サッカー少年という言葉を地でいってるようなやつだった。それが、こんな王子様風に変化? 「ユウ! お前、お前……整形した?」 「「「ぷっ!」」」  僕の言葉に、3人が同時に吹き出した。トモが笑いながら、温まったピザを運んでくる。 「ははははっ! ユウは元は色白だったんだ。小学校の頃は女子に大人気だった。片っ端から振ってたけどな。それが嫌で中学校で変身。見せかけだけのスポーツ少年になった。」 「へぇ……。」  そういえば、どこかしら面影はあるようなないような……。 「トモは1番変わらないな。高2で転校してきた時、俺たちは顔を見た瞬間に分かったし。」  リョウの言葉にトモの顔を見上げる。トモは湯気の立つスープカップを2つ持って僕の隣に座るところだった。 「そう。わー先生が忘れられなくて、祖父母を説得してまたこの街に戻っきたんだ。」  チュッ  いきなりトモの顔が寄ってきて、鼻の頭にキスをされた。思わず俯く……今の話の流れでキスなんて……恥ずかしすぎる。 「ほら、オニオンスープ。温かいうちに飲んで?」  バターの香りが漂うオニオンスープをスプーンで掬って口に入れる。熱々のスープが空きっ腹に染み渡っていくような気がした。 「美味しい!」 「だろ? これからはカズにだけ作ってやるから。」  僕のこめかみにキスをして目の前のピザを一欠片取ろうとしたトモの横顔を追いかける。 「えっ!? 僕にだけって?」  ピザに齧り付いたトモの大きな口を見ながら答えを待っていると、正面からユウの声が聞こえた。 「俺たち、俺とリョウは、明日帰る。」  
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