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リビングに降りると、パンの焼ける芳ばしい香りとコンソメスープの温かな空気が漂っていた。ユウがトモと一緒にキッチンへ立ち、リョウも2人の周りを彷徨いていた。
「あ、カズおはよう。遅かったじゃん。トモは起こしてきたって言ってたのに。」
リョウが戸棚から皿を出しユウに手渡すと、ニヤつきながらこちらに歩いてきた。
「何々? 腰が立たなかった? ん?」
「んなっ!」
不躾な視線で眺められてカッとなる。昨日は何もしていない! まぁ、キスはしたけど。それ以上も少しだけは……何か言い返してやりたいと思うのに、言葉が出てこない。悔しい……。加納のくせに!
「ほらほら、リョウ、止めろよ。欲求不満をぶつけるな。お望み通り、帰ったら俺のマンションへ直行だ。もうやだっていうまでヤッてやるから。」
大皿にピザトーストを盛って運んできたユウがリョウに話しかけ、テーブルに置くとリョウの頬にチュッとキスをした。
「よ、よっ、欲求不満なんかじゃない!」
ユウの言葉に、一瞬で真っ赤になったリョウの顔を見て溜飲が下がった。
「そう? でも荷物は下着と……ほら、そういうものだけだろ?」
「それは! ここに残したら、カズやトモが困ると思うから……!」
「はいはい。それに大切なコレクションだしね。」
僕の方を見てウィンクしたユウが、リョウの頬を包んで上を向かせて濃厚なキスを与える。チュクチュクと音が鳴っていて……目が離せなかった。
「ほら、カズにはまだ早い。こっち向いて?」
いつの間にか後ろに立っていたトモに身体の向きを変えられて、瞬時に口を塞がれた。トモの優しいキス。うん、僕にはこのキスが1番だ。安心できる。僕もいつの間にかトモの背中に腕を回していた。
「これ以上は……今夜、いい?」
「……ん。」
唇を離したトモが、耳元で囁いてくる。また顔が熱くなってきてトモの肩に顔を埋めたけど、勇気を振り絞って呟いた。
「よし、それじゃあ朝食を。」
トモが体を話して大声を出す。リョウたちを見ると、2人抱き合ったままの姿勢でこちらを見て、同じニヤニヤ笑いを浮かべていた。
「んなっ、何を!」
「いや、いい雰囲気だなあって。」
ユウがリョウから離れながらこちらを向く。顔から火を吹いたのが分かったけれど、それでも2人が身につけているいつもの作業着が違うことに気がついた。
『金色?』
ベージュ色の作業着。トモもたまに着ているのを見たことがあるけど、胸ポケットにある「F」のロゴは紺色だったはず。少し輝きがあるツヤツヤした濃紺。
「あれ? 作業着代わりました?」
「あ? ああ。これは12年後の作業着。忘れるわけにはいかないからさ。この上からもう一枚着込んでいく。」
ああ、そういう事か。一昨日から沢山の情報を与えられているけど、どこにも矛盾がない。やはりこの3人は未来からやってきたんだ。改めてそう感じることができた。
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