オオカミは1人だけ

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「ここ……?」  トモの運転する黒のオフロード車の助手席に収まり、30分ほど時間をかけて連れてこられた場所は、ショッピングモール裏側の職員専用駐車場だった。  左右に大きく広がったショッピングモール。一目見ただけで100m以上はありそうだ。建物自体は曲線を描くように建てられているから、中はもっと広いのかもしれない。3階建てで、屋上は……駐車場? 左右に螺旋状に車が上っていけるような構造になっていた。 「どうした? 行くぞ?」  ショッピングモールのロゴ「FOUR」の隣に無数に並ぶ専門店の看板を眺めていると、トモに優しく声をかけられた。 「う、うん。」  開店前でバックヤードの一角は卸業者のトラックが行き交っている。人も沢山動いていて、たった今到着したばかりの僕たちには見向きもしなかった。 「ここに来たのは初めて?」 「あ、ユウさん、リョウさん。はい、初めてです。」  いつも間にか僕たちに追いついた2人に返事をする。2人は白の軽自動車に乗ってやってきていた。2人は作業着。僕とトモはワイシャツにネクタイ。綺麗に分かれているのが面白い。 「ここにはいろいろな店が入っているからねーー。一日中楽しめるよ。ゲーセンも映画館もある。食事は一階のレストラン街がオススメかな? 和洋中全て揃ってる。居酒屋もあるんだぜ?」  居酒屋も? ショッピングモール自体には実家の近くにもあったから、そこにはよく行っていたけど、こんなに大きなものではなかった。一階に小さなフードコートがあって、レストランは5、6軒ほど。確かに居酒屋なんかはなかったはずだ。僕はファーストフード店がお気に入りで、ほとんどそこでしか食べたことがないから分からないけど。 「これから沢山連れてきてもらえばいいさ。さ、カードを出して?」  気がつくとバックヤードの端にある職員の受付の場所までやってきていた。歳を取った温厚そうなお爺さんが警備員の服を纏って座っていた。そこで3人の後に続いて黄色のカードを差し出す。 「ご苦労様です。お若い方は見学ですね。こちらをどうぞ。」  カードを返されて何故かホッとする。結構緊張してる。この後何が待っているのだろう?  ユウとリョウを先頭にして僕はトモと無言で歩いた。バックヤードの通路は僕が思っていたより幅が広く、進む方向には人もあまりいなかった。少し歩いてちょうど開いていたエレベーターに乗り込んだ。 「緊張してる?」  扉が閉まるとすぐにトモが3階へのボタンを押しながら聞いてきた。 「うん……少し。」  ちょっとだけ声が小さくなる。初めての場所で緊張が隠せない。でも、トモやユウ、リョウが働いている場所に来れて嬉しいことも事実だ。直ぐに3階に到着して左手に歩き出す。後ろからユウとリョウもついて来た。 「4階にはどうやって行くの?」  僕がトモの顔に視線を向けると、トモがこちらを向いて優しく微笑んだ。 「隠された扉を使って。」 「そうそう、カズは絶対にビックリする。」  後ろからリョウが声を掛けて来た。何故だか小声だ。ちょうどその時、右側の扉が開いて、どこかの女性店員が驚いたような顔をしてこちらを見てきた。僅かに垣間見えたところから、女性服の専門店である事が見て取れる。 「おはようございます。」 「「「「おはようございます。」」」」  女性の挨拶に異口同音で返し、少しずつ行き止まりまで近づいて行った。 「もう少し待って。…………うん、いいな行こう。」  後ろからユウの声がする。その声が合図だったように目の前のパーテーションの裏側に行くと、トモが壁に手を当てた。途端に音もなく広がった光景に、僕は空いた口が塞がらなかった。  四畳半ぐらいのスペースに真っ白な螺旋階段がある。壁はコンクリートの打ちっぱなしだけど、上から差し込んでくる明かりで暗くはない。素早く中に入り込むと、自動的に開いた扉はまた壁に変わっていた。  トモ、リョウ、ユウ、僕の順で螺旋階段を昇っていく。もう少しで4階の床が見えるかどうかというところまで来た時、リョウの声に飛び上がるほど驚いた。 「洸一さん!」  
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