オオカミは1人だけ

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 僕が4階のフロアに辿り着くと、そこにはトモやユウより体格のいい1人の男が立っていた。その場所は何もなく、壁も天井も床も全て白く塗られ、左右には、やはり白いベンチのようなものが作り付けられていた。奥の壁一面に広がる窓から入る光で全体が輝いて見える。 「お前たちだな? 所長から聞いてる。こっちへ来い。」  コウイチと呼ばれた男……トモに少しだけ雰囲気が似ているような気がする。短髪で前髪を立たせて固めているけど。でも、切長の目で見られると少しだけ怖い。声がものすごく低くて凄みがある。トモの方が少しだけ優しい顔と声をしているかも。  トモの方を見るとトモもこちらを見ていた。少しだけ口角を上げるとそっと手を繋いでくる。そして2人で、いつの間にか音もなく左側に開いていた部屋へと、みんなの後について入って行った。 『ここは……?』  先程の白い空間とは違い、今度は藍色で塗り固められた空間。間接照明がいくつかつけられているけど、全体的に暗いイメージだ。目が慣れてくると、壁や天井に黒い無数の小さな点があるのが分かった。右側の壁には大きな机が置いてあり、3台のパソコンのモニターとキーボードが1つだけ置かれていた。 「君たちは俺を知っているな?」 「「はい。」」 「洸一さん! 若いっ!」  パソコンを背にしてこちらを向いたコウイチさんと向かい合うようにして、4人で横に並ぶ。ユウとトモの声に被せるようにしてリョウが弾んだ声を上げた。 「リョウ!」  ユウの非難するような口調で、リョウが少しだけ顔を赤らめた。 「俺は君たちのことは知らない、知りたくもない。ただ、今日の件に関しては指示を受けている。帰るのは誰だ?」 「「はい。」」  ユウとリョウが2人揃って手を上げる。コウイチさんの視線がトモへと向かった。 「では、残るのは君だな? 名前は?」 「小池智治。これから『U』の部屋で働くことになる者です。」 「……『U』?」  コウイチさんは少しだけ眉間に皺を寄せて何やら考えているようだったけど、皺を解くとまたトモへ向かって質問してきた。 「では、智治くんはここの操作もできるな?」 「はい。」 「俺もできるとは思うが自信がない。今回は君に任せる。12年後に帰す前に、1度10年後のこの日付で扉を開くように言い渡されている。こちらに来て指示書を確認してくれ。」  コウイチさんに促されて、トモがパソコンの前の椅子に座り、渡された封筒に入った書類を出して眺め始めた。急に隣のトモが行ってしまって居場所がない。僕はトモの隣にある、もう1つの空いている椅子に座りたくてしょうがなかった。 「君、名前は?」  いきなり声をかけられて肩が揺れた。慌ててコウイチさんの顔を見る。すると目の端に、後ろをサッと振り返るトモの姿が見えた。 「五十嵐和といいます。」  トモが見ている。それだけで勇気が出てコウイチさんの顔を真っ正面から見た。 「君が智治君の…………?」  トモの何だって? 何を言いたいの、この人? でも何となく、何を聞かれているか分かったような気がして顔が熱くなるのが分かった。 「洸一さん、浮気はダメです。」 「奏さんに言いつけますよ?」 「カズは俺のモノなので。」  ユウが声を上げるのを始めとして、リョウ、トモが後に続いた。3人の顔を順に睨みつけるコウイチさんがいる。迫力があるけど、少しだけ耳が赤くなったような気がした。 「心配ない。俺も奏しか眼中にない。」
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