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「何故10年後の10月1日なんでしょう?」
キーボードを叩きながら、トモが呟いた。コウイチさんがトモの近くに寄って画面を見る。3つの画面には沢山のウィンドウが重なるようにして現れていて、何が何だか分からない。数式が並んでいるものや、細かな数字が並ぶ表。それに……風景? 色々な風景が目まぐるしく変わっていくウィンドウもあった。
「俺も詳しくは聞いてない。でも、開けたらすぐに閉めろとの命令だ。これで……分かるだろ?」
「ええ。」
コウイチさんがトモの傍に置かれた資料のようなものを指さす。トモもそれを見て頷いていた。こうやって見ると、コウイチさんも若そうだ。雰囲気が落ち着いてるから年上に見えたけど、もしかしたら、トモたちとあまり変わらないのかもしれない。
「できました。」
トモの呟きで、その部屋に1つだけあった窓に変化が現れた。真っ暗だった窓の上半分には雲ひとつない青空が広がり、そして下の部分は何やら薄暗い倉庫のような場所が映されていた。部屋も太陽光が取り込まれて大分明るくなる。
『窓……だよなぁ。』
はめ殺しの窓は縦が150cm、横が180cmぐらいでかなり大きい。でも、何かのスクリーンなのかもしれない。
そのうちに窓の下の方、薄暗いところに人影が現れた。暗くてよく見えない。けれどもユウやリョウが身につけているのと同じような作業着を着ている人物だということが何となくわかった。
「3、2、1……。」
コウイチさんの声を合図にしたのが分かる。窓の左側にある壁が大きく開き、そして閉じていった。
「「「トモっ!!」」」
思わず僕とリョウ、ユウの3人が叫んでいた。目の前に1秒ほど現れた人物は確かにトモだった。慌てて窓に目をやる。うん、トモだ。間違いがない。今と同じような髪型。少しだけ短く、シェアハウスで出会った最初の瞬間を思い出した。窓の外のトモも驚いた表情をしているのが何となく分かった。
「次は12年後だ。」
コウイチさんの声に、トモの手がキーボードを叩き出す。窓はまた暗くなってしまった。何故10年後のトモがここに……?
「くっ、くっ、ふはっ、はははっ! そういうことか!」
いきなり笑い出したトモに全員が注目した。
「どうしたの?」
リョウがすかさず尋ねる。僕も知りたい。今のは何だったの? リョウの言葉を聞いて、トモが椅子を回してこちらを向いた。
「2年近く前、今からは10年後、俺はある人物を迎えに行くように所長に命令された。唐突な命令だったから変だと思ったが、案の定、その人物が現れる直前に一瞬だけドアが開いて声が聞こえたんだ。今と同じ『トモ』と。思い出した。」
トモが可笑しくて堪らない様子で説明をしてくれた。
「所長からのプレゼントだそうだ。良かったな。」
僕はトモの言っていることも、コウイチさんの受け答えもサッパリ分からなかった。
「あの、今のがトモだとしたら、あのトモがこの部屋に入ってくるかもしれなかった?」
「まあ、そうだな。だから瞬間的にしか開けない命令だったんだろ。」
僕の問いにコウイチさんが答えてくれたけど、どうしても分からない。この壁のむこうは地上10m以上のはず。
「この壁の向こうに、さっきの暗い場所があるんですか?」
自然とさっき開いたばかりの壁に向かう。後ろから、トモの声がした。
「そこの壁の外側はショッピングモールの駐車場。出入り口は他にあるんだ。」
気がつくと、静かに近づいてきたトモに、背後からすっぽりと抱きしめられていた。
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