その四

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その四

 https://estar.jp/novels/25785292/viewer?page=1  しかし、と思う。 「知ることを放棄することは」逃げではないのかと。  もしもこの状態が崩れ去るとしても私はあなたを忘れないだろう。今もこのように体がひとつなのだから。  けれど、忘れずにいることは、決断を恐れた先延ばしではないのかとも思う。ずっとこの状態が保たれる保証はないからよけいに。  憶えていることと忘れないことは違う。憶えているのは記憶だ。忘れないのは強い思いだ。叶わずながらも抱く切なる願いだ。 「そうかな? よくわからないけど」あなたは首を傾げる。 「今だよ、いま」あなたは笑う。 「もしもこの関係が崩れ去ったなら……」 「もしも……?」 「そう、もしも」 「きっと幸せだったと思うに違いない。もしも木っ端みじんに砕けたら。また会えばいい、あの家で」 89dfefcb-dced-4ba5-9f23-b04516c5dfcf 「わたしは、かわいい女じゃなかった?」 「でなきゃ喰ってた」  少しわかるような気もする。これがきっと文系蜘蛛の理論。
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