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その四
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しかし、と思う。
「知ることを放棄することは」逃げではないのかと。
もしもこの状態が崩れ去るとしても私はあなたを忘れないだろう。今もこのように体がひとつなのだから。
けれど、忘れずにいることは、決断を恐れた先延ばしではないのかとも思う。ずっとこの状態が保たれる保証はないからよけいに。
憶えていることと忘れないことは違う。憶えているのは記憶だ。忘れないのは強い思いだ。叶わずながらも抱く切なる願いだ。
「そうかな? よくわからないけど」あなたは首を傾げる。
「今だよ、いま」あなたは笑う。
「もしもこの関係が崩れ去ったなら……」
「もしも……?」
「そう、もしも」
「きっと幸せだったと思うに違いない。もしも木っ端みじんに砕けたら。また会えばいい、あの家で」
「わたしは、かわいい女じゃなかった?」
「でなきゃ喰ってた」
少しわかるような気もする。これがきっと文系蜘蛛の理論。
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