序章

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場所は変わり、大地主の貴族と大量の陰陽師が倒れている山の中腹。 春樹と冬樹を取り逃がした彼らは後から来た1人の陰陽師によって、なんとか気を取り戻した。彼らが気が付いた時には既に2人は何処へ行ったのかも分からず仕舞いになってしまい、大地主の貴族が怒り狂っていた。 「な、なな何で取り逃がした!?い、今すぐ彼奴らを連れ戻せ!!」 「落ち着いてください、旦那様!」 護衛として付けていた陰陽師達は必死に止めようとしているが、そんなことに耳を貸さない大地主。それを見ていたのは、彼らを助けた男性だった。 「まぁまぁ、旦那様。お怪我が無くて何よりですよ」 「そ、そんな事言ってられるか!こ、こっちは奴隷を逃したんだぞ!」 「それは仕方ないですよ、旦那様。これは助かった命の代わりだと思って頂ければ安いものかと…」 「う、うるさい!!だ、大体お前はな…!」 例の癇癪が止まることを知らない大地主は宥めている男性に対しても牙を剥いた。大地主は彼が誰なのか知る訳もなく、指を差して唾を撒き散らしている。それを見ている周りの陰陽師達は彼の発言を止めようにも何も言えずに狼狽えるばかり。大地主の行動を見て、聞いていた彼はゆっくりと近づいて微笑む。 「な、何で微笑んでるんだ!」 目を細め、口元は軽く口角が上がっている。仏様のようなその顔は何かしらの意味を含んだように見えた。その笑顔に戸惑っている大地主は徐々に距離を詰めて来る彼から距離を取るように離れようとする。 が、しかし。彼は太りに太ったまんまるの顔を勢いよく掴んで瞳孔を大きく開かせた彼はこう言った。 「……貴方の命があるのは、気絶していたからです。あの巨大な霊力を直で浴びたら普通は死にます。ですが、これを放った“誰か”が子供だったと言うのならば……貴方、将来その“子供”に殺されますよ?」 「ヒッ…」 細く、柔らかい笑顔を作っていた彼は見えない何かを発し、掴んでいた顔を何の前触れもなく話た。それが何かも分からない大地主はただ腰を抜かして地面に大きな音を立てて尻餅をついた。 「しかし、これ程の霊力を持ち合わせている子供がいるとは……一体、何者なのでしょうか?」 右手を顎に当てて考えている彼は、巨大な圧力を出していた人間には見えない。彼の質問に答える人間はこの場におらず、腰を抜かした大地主は近くにいた護衛の陰陽師に話を聞いた。 「あ、彼奴は一体誰なのだ!?」 「旦那様……あの方は、十二神司十二神司(じゅうにしんし)の1人です。あの四神の内の一つ、『青龍』の使い手でございます。実力は他の十二神司の中でもトップレベル。農民から今の地位まで下克上でのし上がった実力者。名前は……九条蒼(くじょうあおい)」 「あ、彼奴が……!?」 彼が驚くのも無理はない。『十二神司』と呼ばれる十二人の陰陽師が存在している。この十二人は星の数ほど存在する陰陽師の中でもトップクラスの実力を誇っている者達。『十二の神の使い』と言う意味を持ち、あの安倍晴明が持っていたと言われる『十二天将』を持っているのだ。 「な、何でそんなのがここに……」 「理由は簡単ですよ。“あの”瞬間、私が感じた霊力は異常な程だった。大人でも、我々十二神司でもあの霊力を出すことは出来ないのです。……しかし、貴方達が言うことが本当ならば。……今後、歴史が変わるかもしれませんね」 優しく、朗らかに話している蒼。しかし、彼の表情はその声音に合わない程厳しい顔をしている。彼の顔を見て、ただ事ではないのを悟った大地主と陰陽師達は大人しく黙っているだけだった。 彼は、九条蒼は考えた。 これは、いや、彼は必ず今までの歴史を変えてしまう存在になる。二つに別れてしまったこの国々を巻き込んで、私たち十二神司をも巻き込んでしまう程の存在に。 そんな彼の心情などを考えない桜の花びらは、いつもより空高く舞っていた。その花びらは蒼の頭の上に乗り、その後そよ風によってヒラヒラと地面に落ちて行った。
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