メルトダウン

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メルトダウン

 眼差しが鮮烈だった。 「四月より当校の養護教諭として勤務していただきます、矢花結子(やばなゆうこ)先生です」  校長先生が紹介するのに合わせて、お辞儀をする。顔を上げた途端に、鮮烈な眼差し感じた。  体育館の扉は開いていて、差し込む日差しが絨毯のように床へ伸びていた。筆で引いたような一筋の光の中には、制服を着崩した男子生徒が両手をポケットに入れて立っている。彼はクラスの人気者なのだろう。新入職の教員の紹介でざわめく体育館の中心に立っており、周囲には同じく明るい髪色をした生徒が集まっていた。ひっきりなしに話しかけるクラスメイトへ適度な対応をしながら、彼の射抜くような眼差しは依然として壇上にあった。  前で重ねた掌が、ほんの少し震えたのを覚えている。  我妻遊児(あがつまゆうじ)。それがのちに彼の担任から教えられた名前であり、二年生の不良グループを束ねる男子生徒の名前でもあった。
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