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「今日はずっと顔色が悪いですよね? 急ぎの仕事でなければ、もうお帰りになってはいかがですか?」
差し出されたカフェオレを、ありがたく受け取った。職員室へ寄った時に川原先生と会話はしていないのだが、秘かに心配されていたらしい。
顔を上げると、眼鏡の奥にある柔らかな瞳が優しく弧を描いた。ほっと肩の力が抜ける。
「そう……ですね。実は昨日、あまり眠れなくて」
「悩み事ですか? 僕でよければ、相談に乗りますよ」
目を見張ると、川原先生が慌てたように手をばたつかせる。
「あ、すみません! 馴れ馴れしい提案をしてしまいました。僕、下に妹が三人いて、女性の悩みを聞くのは慣れているというか……。少しでも矢花先生に元気になってほしくて」
「ありがとうございます。川原先生にはいつも助けられています」
微笑むと、川原先生は少し目を見張って、照れたように頭の後ろを掻いた。川原先生の好意は眩しい。善意で満ちている。私や彼とは対極にある人。
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