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正直、初めて同士のアラサーなんて、事故にしかならないと思っていた。
川原先生はがちがちに緊張していた。それなのに、丁寧に私を愛そうと努めてくれた。一生懸命な姿が微笑ましくて、痛みなんて大した問題ではなかった。あーでもない、こーでもないと言い合いながら初めてを経験した私達は、終わってみると妙な連帯感で繋がっていたように思う。
「女性にとって初めては忘れられない思い出だと言いますけど、男性にとっても同じようです」
好きです。矢花先生。初めてお会いした時から、波長の合いそうな人だなと思っていました。
真摯に告げる川原先生に、私は恥じらう乙女に見えるよう、努めて演技をした。知っていました。だから、ちょうどいいと思ったんです。心の中だけで告げる。
「順番が逆になってしまって、非常に申し訳ないです。僕と真剣にお付き合いをしていただけませんか?」
満身創痍の私をガウンで丁寧に包みながら、川原先生は緊張した面持ちで告げる。早くも後悔していた。善良なこの人を、身勝手な感情に巻き込んでしまったことに。
「私でよければ、よろしくお願いします」
懺悔の代わりに告げる。嬉しそうに笑った川原先生を見て、目の奥がつんと痛んだ。
川原先生の初めてをもらった代償に、一生をかけて償ってもいいと思った。
「付き合っているのに、お互い先生呼びは変じゃないですか?」
「そ、そうですね」
「結子と呼んでください」
「結子」と、川原先生が恥ずかしそうに口遊む。彼とは違う響き。どっちが甘いかなんて、考えるだけ徒労だ。
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