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踊り場に陣取る彼と目が合う。彼の隣には、私と同じ名前の女子生徒。
ふい、と目を逸らして、保健室へつま先を向ける。一歩を踏み出しかけたところで、唐突に腕を引かれた。冷たい。驚いて顔を上げると、おそろしいほど表情のない彼が立っている。
「我妻君」
どうしましたか?
努めて冷静に尋ねる前に、ぐいぐいと腕を引っ張られた。置いてきぼりをくらったユウコさんが固まっているというのに、彼は私の手を放さない。掌の冷たさが、皮膚の内側、骨の髄まで伝染しそうだ。
無言のまま腕を引かれて辿り着いた保健室に、心臓が音を立てて軋む。彼が知るあの日のままの私は、もういない。
「待ってください」
全体重をかけて踏ん張る私を、彼は剣の滲んだ瞳で振り返る。その目が駄目だ。骨の髄までどろどろに溶けそうになる。
「愛してるとか、俺にはわかんねえよ。気持ちいいことしか、わかんねえ」
「我妻君」
「ゆうこは俺に欲情しねえの?」
彼が私をその気にさせるために、挑発していることには気づいていた。気づいた上で、反撃をすることにした。傷つけられたからといって、傷つけていい理由にはならないのに。
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