メルトダウン

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 我妻君は三日に一回のペースで保健室を訪れた。あたたかな眠りを求めるだけではない。次第に、菓子パンと牛乳を持って、保健室で昼休みを過ごすようになった。  おかげで私は保健室を留守にするわけにもいかず、学食にも行けない。渋々弁当を持参する私を見て、我妻君はにやにやと笑う。間違いなく確信犯。 「ゆうこの卵焼き、うまそう。ちょーだい」 「嫌です。結子って呼ばないでください」 「ゆうこのけち。じゃあ、アスパラのベーコン巻でいいや」 「あげません。結子って呼ばないでください」 「じゃあ俺も改めない」  どんな交換条件だ。唖然とする私に目線を合わせて、彼は「ゆうこ、ゆうこ」と楽しそうに口遊む。ぴちぴちの男子高校生に下の名前で呼ばれるアラサー。……寒気がする。 「そこは顔を赤らめるところじゃねえの? なぜ青くなる」 「……からかう相手がほしいのなら、他を探してください」 「俺はゆうこで遊びたい」 「先生で遊ばないでください」 「ゆうこって先生なんだ? じゃあ教えてよ、性教育」  軽薄を絵に描いたような男をじろりと睨む。多感な時期からこんなのでいいのだろうか。将来が心配。  私の心を正確に汲んだわけではないだろうに、彼はおどけるように肩を竦めた。 「冗談でーす。間に合ってまーす」  本人が自負する通り、我妻君はモテる部類のようだ。校内ですれ違う時は、基本的に派手なメイクの女の子を腕にぶら下げている。彼が友人と卑猥な話に花を咲かせているのを、行きずりに耳にしたことがある。彼の恋愛観としてまず、「処女は面倒くさい」らしい。特定の彼女は作らず、不特定多数の女の子の間を蝶のように渡り歩いているようだ。  私と目が合うと、彼は挑戦的な瞳で笑った。光の帯を筆で広げたような、鮮烈な眼差し。時折垣間見せる視線に射竦められると、私は途端に隠れたくなる。逃げ場などどこにもないと知っているくせに。
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