メルトダウン

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 翌日、踊り場で見かけた彼は、派手なメイクの女子生徒の隣に腰かけていた。すれ違いざまに目が合った。強い視線で私の心を縫い止めたまま、女子生徒に唇を寄せる。 「ゆうこ」  足が止まる。間髪入れず、「なぁに?」と甘く媚びた声が上がった。彼は私の名前を呼ぶ柔さで、隣に腰かける女子生徒を呼んだのだ。理解した瞬間、足元から崩れ落ちる錯覚を抱いた。 「今日もお前んち行っていい?」 「やだー、えっち」 「好きだろ?」 「好きだけどー。さすがに二日連続はしんどいっていうか」  白い半袖のシャツを纏う彼の腕には、乱雑に包帯が巻かれていた。昨日は病院に行かず、彼女と運動に励んでいたらしい。  ――手が冷たい人間は、心があったかいって言うよ?  彼の言葉を思い出す。嘘つき。嘘ばっかりつく人間の腕なんて、冷たく凍えて腐り落ちてしまえばいい。 「矢花先生。顔色が悪いですけど、大丈夫ですか?」  保健だよりの作成が終わらず、残業をしていた私の元へひょっこりと現れたのは、川原先生だった。慣れない職場に右往左往している私を、川原先生は何かと細やかに助けてくれる。保健室の引き戸を苦労しながら開けるので慌てて駆け寄ると、川原先生の両手にはカフェオレが二つあった。
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