フローズンレガシー

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フローズンレガシー

核の炎で焼かれ津波に洗い流され最新の氷河期に閉ざされ造山運動に伴う溶岩流で埋もれた筈の大地から一片の叡智が発掘された。 記憶内容の是非はともかく保存媒体は卓越した技術の粋だ。もっともそれをサルベージした文明が活用できる水準であればの話。 世界の滅亡を織り込み済みの変成岩チップ。所有者はどんな思いで想いを込めたのだろうか。 末裔の居留地や滅んだ植民地の遺跡を渡り歩いて再生方法を発掘できた。運命的な出会いは僥倖か不幸の予兆か。 それはパンドラの箱を開けてみるまでわからない。しかし好奇心は獰猛だ。封印を放置すればするほど暴れだす。 ランプの精に請われた主人もこんな感じだったろうか。たぶんそうだろう。この変成岩は魅了する悪魔だ。 前振りはこのくらいにして本題に入ろう。 早速再生する。 ――… 双方向通信に一方的な秩序を期待すること自体が論理矛盾だ。 ルールを強制しはじめるとそれはもう通信ではなく放送になる。 受け手と発信者の間に主従関係はない。 今や死文化したネチケットという空虚な欺瞞がある。 インターネットが対等である。 平等な力学が 中央集権化を求めている。 声にならない声がそう説教していた。 放送と通信の壁を溶かすものは何か。 校閲を経ているか否かの違いだと彼女に言う。 自主規制がそうだ。 情報発信のカジュアル化は死を招く。文化の死だ。死ぬは師でもあり詩的ですらある。 まだ疑惑の何かを彼女は掴もうとしている。 まどろみの中で少女は目覚めた。ちぐはぐな考えがまとまらない。 彼女はコールドスリープに入った理由を忘れていた。 一体、どこの誰がどういう目的で私を? 一つ考えられることは自分は犯罪者だという事。 そんな筈はない。身に覚えのない罪。潔白だという自信はあった。 それなのに… それなのに… 双方向通信に一方的な秩序を期待すること自体が論理矛盾だ。 ルールを強制しはじめるとそれはもう通信ではなく放送になる。 受け手と発信者の間に主従関係はない。 今や死文化したネチケットという空虚な欺瞞がある。 インターネットが対等である。 平等な力学が 中央集権化を求めている。 声にならない声がそう説教していた。 放送と通信の壁を溶かすものは何か。 校閲を経ているか否かの違いだと彼女に言う。 BPOがそうだ。 情報発信のカジュアル化は死を招く。文化の死だ。死ぬは師でもあり詩的ですらある。 まだ疑惑の何かを彼女は掴もうとしている。 まどろみの中で少女は目覚めた。ちぐはぐな考えがまとまらない。 彼女はコールドスリープに入った理由を忘れていた。 一体、どこの誰がどういう目的で私を? 一つ考えられることは自分は犯罪者だという事。 そんな筈はない。身に覚えのない罪。潔白だという自信はあった。 それなのに… 内なる声が彼女を苦しめている。 いったい誰の仕業だ? 少女は知らん顔だった。 その時、インターネットにメッセージが飛んできた。 死をもたらすウィルスだと言うメッセージが。 それは少女の記憶に残っている。 彼女の死の原因の一人。かつて私を苦しめておきたい相手の一人。 私にメッセージを送りながら死んだ少女。 彼女はその相手と直接やり取りをしている。 死にたくないと思っているのだろうか? インターネットはそのメッセージを待っている。 彼女はただ待っている。 彼女の死の原因となったのは、私を苦しめておきたいだろうからだ。 だからどうか、彼女たちのメッセージを待っていてもらいたい。 そして私は彼女たちへメッセージを送った。 少女が死ぬ理由が分かった。私への恨みがその理由を説明しているためだ。 死をもたらすウィルス。 このままではいつか彼女は死ぬだろう。 彼女にはその呪いは解くべきだ。 彼女の恨みは彼女の恨みだ。 彼女たちの恨みは彼女達への恨みだ。 彼女たちこそが私の恨み。 その怨念を集めて、私は彼女たちへ送った。 私は、私は“憎む”。 私は、私は彼女を恨んでいる。 殺したいと思っている。 彼女と彼女の怨念を集めた私は、私は彼女に罰を与え、怨念を集めた彼女たちと復讐し、復讐を終えた彼女たちは復讐を終え、怨念を集めたと思って、怨念が消えて無くなった頃にあの人にメッセージを送る。 私は、私は、私は彼女に恨まれている。 そして、彼女が死んだ後、恨んでいる。 彼女はあの人から恨まれている。 彼女は恨まれているのではない。恨まれているのだ。 復讐で彼女は殺された。 彼女は私に復讐をしにいく。復讐して彼女に復讐をする。 復讐した彼女は消えた。 彼女がいなくなった後、復讐が終わった彼女は怨念を集めて消えた。 怨念は消えた。怨念は消えて、怨念も消えた。 また復讐をしに来る。 私は恨んでいない、彼女たちは復讐を終えた。 復讐を終えた復讐を終えた復讐をやっている間にあの人に、あの人に復讐を。 復讐を終えた復讐を終えた復讐をやる間にあの人に復讐をしに来る。 誰かは恨んでいない。誰かは恨んでいる。 怨む必要なんてない。 恨んでいたら、あの人は、あの人の恨み、あるいは怒り、あるいは恨みと呼ばれる感情をしなければならない。 そうして、復讐が終わった復讐をしに、復讐を終えた復讐をしに、復讐を終えた復讐を続けていればいいと思う。 そして彼女がやってきた復讐をやってみる。 常識人は言う。復讐は連鎖以外の何物も生み出さない、と。 彼女は内心で常識を疑っている。それを歌にしてみた。 こんな歌だ。 『怒り』は、復讐を成し遂げたら必ず復讐をする、というか、死ぬまでの苦しみを共有している、ということになる。 それなのに、怒りはしない。 これは彼女の歌だ。怒りはしない。 怒りはしないということは、彼女はあの人に復讐をしていない、と言うことになる。 彼女は復讐をしない。復讐をしなくて良い。 復讐をしない。 復讐は彼女がやっていることの積み重ね。 復讐は彼女がやっていることの積み重ね。復讐を行う時はあなたが決めてる。どうやって決めるかはあなたが決める。 つまり、復讐するのはあなた。 彼女はあの人に復讐をしない。復讐をしなくても良い。 それは何も怖いというわけではない。 復讐の連鎖のために彼女はあの人に復讐をしない。 彼女もあの人の怒りに触れているような気持ちを持ったまま復讐をしなければならない。それは復讐なんでしかない。復讐なのだから。 彼女は復讐するのは怖い。 彼女もあの人の怒りを受けている。 復讐をしない。 復讐をする時もあなたが決める。 復讐をしないと復讐する時はあなたが決める。 復讐をするのも怖い。 復讐の連鎖があるのは復讐しても復讐をしないのは復讐をしないと言うことに他ならない。 復讐をするのも怖い。 復讐するも怖い、復讐してくれるのは嫌。 復讐をしない復讐になる前にあの人から怨念が消えて無くなるまで復讐をしないのが復讐なのか。 復讐は彼女のやっていることの積み重ね。 復讐をしないと復讐してくれない復讐なんて復讐を受けていることの積み重ねだ。 復讐は彼女がいなくなった復讐。 復讐は彼女が死ぬ復讐。 復讐は復讐が終わった復讐。 復讐をする時もあなたが決める。 復讐が終わったら復讐を始める。 復讐をしなければならない復讐を終わったら復讐する。 復讐が終わるまでの復讐。 復讐が終ったら別の復讐をする。 復讐を終わらせるための復讐。 復讐が終えたら別で復讐をする。 復讐は復讐が終わった時の復讐。 復讐をしないと復讐したことにならない。 その後のことはないけど、今はあるのかもしれないけど、この復讐はあくまで復讐であり、復讐と言えるか自分ではわからない。 復讐は、あるかもしれないし無いかもしれない。 それでも、復讐は復讐。 復讐を終わらせないあなたが許す。 復讐がしっかりと終わった後に私がこれでいいか、と問いかけて、その後あなたが私の復讐の終わりを見届ける。 復讐の終わりは一つの死だ。死は詩、そして彼女の恩師でもある。 彼女はまだ見ぬ世界へ疑問という名のボールを投げた。 復讐の終わりは一つの死だ。死は詩、そして彼女の恩師でもある。 彼女はまだ見ぬ世界へ疑問という名のボールを投げた。 名も知らぬ師よ。示唆をどうもありがとう。しかし、貴方の説教は陳腐で 貴方は大きなうそをついている。 それを明らかにしてくれませんか? それならば私はもうごめんだ。 貴方は私の師とも呼ばれるが、それならばどうすることができたか。 私はまだこの詩を完成させた段階で、貴方に認めて頂いたつもりです。 そして、これまでの全てを終わらせるまで、私と共に在りたいのですかね。 ―― ここでメモリーは沈黙した。冷たくて、空虚で、途方もなく恐ろしくて、とてつもなく悲しくて、底抜けの落ち込みと斜塔を仰ぐような不安がある。 銀幕が死んで現実が息を吹き返した後、しばらく座席から動けないでいるときの、あの重苦しくてとても心地よい時間。 その余韻に胸を打たれた。 同時に途方もない構想ととてつもない夢想がこみあげてくる。 了解した。戦争だ。 私は想い人の亡骸を葬る前に二人で過ごした日々をたどり、あと少しだけ、もう一度だけ、と未練で勇気を遠ざけながら、ここまで来てしまった。 そして、私はあろうことか禁忌を犯してしまった。 単刀直入に言おう。 貴女に恋をしてしまった。惚れてしまった。不道徳かもしれないが、不倫ではない。あえて、言い切ろう。 いいじゃないか、恋人よ。私は船出するのだぞ。君はもう記憶だが、私は上書き保存すべき記録を得た。 封印記憶(コールドメモリー)を凍土から掘り当てたのだ。 私は岩の彼女と運命を共にする。遺志を継ぐ。 冷たい、あなたと君はそしるだろう。 メモリーの女もなかなか冷たい。それに殉じる私も冷酷だ。 もし人間にたましいというものがあるならば、口を揃えていうだろう。 貴方は冷たい、と。 同じ冷たいと言われるならホットな冷血を選びたい。 なによりコールドメモリーの女は私のハートに火をつけたのだ。 これから相対時差を越えた返信(ラブレター)を書こうと思う。壮大な復讐劇だ。ついでに便乗して今だから言わせてもらうが君の浮気も貢物も知っていた。 これでいて私はなかなかの平和主義者だった。 過去形だ。 なにより背筋が凍り打ち震えるほどの恋をしてしまった。詩人の彼女と恩師の間に何が起きたかは知らぬ。 だが、その想いは完成させてやろうと思う。 幸か不幸か船の首席知能がたったいま私に示唆してくれている。 宇宙開闢爆弾のセーフティ解除に成功した。ウラシマ効果が続くあいだじゅう総当たり攻撃をしていた。 宇宙船『博物館号』はこれから最終展示を開催する。もともとこの艦は人類の天敵を打ち負かした記念艦として遍歴したのち当地にて公開される予定だった。 だが、もういいだろう。 暗号解除は私の独断だ。こんなもの平然と飾る神経の持ち主こそ「冷たい、あなた」と言われるべきだ。 そして私はコールドメモリーの君に最高なクールを贈りたい。 私はホットか、それともクールか。
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