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翌日2人して寝坊し、楽しみにしていた朝食を食べ損ねてチェックアウトに間に合うように慌ただしく帰り支度をした。
「あーあ、オススメの高級卵を使ったオムレツ食べたかったー」
のぶが車を運転しながらため息混じりに残念そうに言った。
「誰のせいだか」
「は?俺のせい?それは違う。せいじが悪い。」
「何で俺が悪いんだよ。」
からかうように言った一言にのぶは食い下がってきた。
「あんなかわいくてエロいせいじ見せられたらおかわりしたくなるでしょ。」
「…何だよ、それ…」
からかうつもりだったのに何故か墓穴を掘ったようになり恥ずかしさを紛らわすために窓の方を向いた。
「すぐそうやって照れるのも照れ隠しするのも可愛い。」
全て見透かされているような言い方をされてますます窓の外から視線を外せなくなる。
黙って外の景色を眺めていると、信号で車を停車したタイミングでまたのぶに頭を撫でられる。
「ずっと一緒にいるよ」
「え?」
俺は驚いてのぶを振り返る。
「昨日の返事。」
そう言いニコっと笑うのぶの顔を俺は茫然と見つめる。
「…起きてたなら、言ってくれればいいのに…」
俺は堪らず視線を逸らし俯いた。
「また赤くなってる。かわいい。」
「ほら、信号青に変わるから前向け!」
茶化してくるのぶにムッとしながら俺はのぶの頬を両手で挟み無理やり前の方に向けさせた。
のぶは笑いながら前に向き直りゆっくり車を発信させる。
暫く車を走らせると海が見渡せる通りに差し掛かる。
のぶはその通りにあるパーキングエリアに車を停めた。
「腹減ったし何か買ってちょっと休憩しよ。」
パーキングエリアには何台か車は停まっていたが、冬のせいか大きな海を見渡すために外に出ている人はまばらだった。
簡単な軽食を買って車の中でそれを食べながら海を眺めていた。
夏は青くてキラキラ光る海は、冬は暗いグレーに近い色に身を包み静かに波に揺られていた。
普段海に来る事も無いし、冬の海を見る機会もなく新鮮でついつい見入っていた。
「海に来たのは2回目だな。」
のぶが海を黙って見つめていた俺にふと話しかけてくる。
「…あー、小学生の時来たね。砂浜でかき氷こぼしてのぶ泣いてたよな。」
「…そうだけど。その覚え方は不本意だな。」
のぶに視線を向けると少し不機嫌そうな顔をしていた。俺がふっと笑うと、その表情の色はますます濃くなる。
「のぶってあの時と比べたら泣かなくなったけど、やっぱり変わらないよね。」
「そんな風に言うのせいじくらいだよ。みんな俺に気づかないし、変わったって言われる。」
「変わらないよ。優しくて、頑固で、甘えたなとこ。」
そう言うと俺はいつの間にか近づいていたのぶにキスされた。
「ちょっと…!誰かに見られたらどうすんだよ!」
俺は不意打ちに驚き慌てて周りを見渡しのぶを押し返す。
「確かにそうだな。俺は昔も今もせいじにベッタリだしせいじが居ないとダメになる。」
のぶは先程の不機嫌そうな表情が嘘かのような上機嫌な笑顔を俺に向けてくる。
「だからって人前でこういうのは止めろよ。」
俺はのぶから視線を逸らし慌てて食べかけのサンドイッチを口に詰め込み、コーヒーで流し込んだ。
「昨日のせいじの言葉嬉しかった。俺だってせいじとずっと一緒に居たかったから。」
そう言うとのぶは横から俺を抱き寄せる。
「だから…人のいるとこで…」
「誰もいないよ。」
のぶは俺の右手からコーヒーの入った紙コップを奪いドリンクホルダーに戻しながら俺を抱きしめて首筋に唇を押し当ててくる。
「のぶっ…!こんな所で…やめろよ!?」
唇をそのまま鎖骨の方まで優しく移動させる、まるで前戯のような触れ方に俺は焦りを滲ませる。
「…俺、まだ全然せいじが足りないんだよね。」
のぶは俺の顔を上目遣いで見上げる。
「……」
俺は何も返せずのぶを見つめ返す。
「明日祝日だし…今日せいじの家泊まっても…いい?」
のぶが今度は少し不安げに俺を見上げる。
俺は暫く黙り込んでから、小さく頷いた。
何だかんだのぶを甘やかしてしまうのは俺も変わらないな、と嬉しそうに俺に抱きつくのぶの背中に腕を回しながら俺は小さく微笑んだ。
番外編 完
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