証言

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 彼女は、とある少数民族の血をひいている。  そしてこの民族への弾圧が、今世界的に問題視されているのだ。 「ではまず、どのようにしてあなたがあの国の当局に掴まったのか、お話いただけますか?」  進行役が女に優しくうながす。  呼吸を整える数秒間をおいてから、女はゆっくりと話し始めた。 「あの国には数年前から、商売のために行き来はしていました」 「ある日、そこに住む友人から電話がありました。私のための良い仕入れ先が見つかったから、来てほしいと」  聴衆は静かに女を見守る。  ここは「民族問題を考える」と題された講演会場だ。 「そしてそれは、目的地の駅に着いた瞬間でした。警察がやってきて、いきなり捕らえられたのは」 「その友人は、警察とグルだったのでしょうか?」  いきなりの展開に驚きを隠しながら、進行役がたずねる。 「ええ、今思うときっとそうだったのだと思います……」 「そのまま収容所に?」  女は頭を縦にふる。 「荷物も、財布も、パスポートもすべて没収されました。そしてこの紙にサインするよう言われました」  女はおもむろに、一枚の紙を取り出す。 「この紙には、『私はテロリストです』と書かれていることが今は分かります。しかし私は、その国の言葉を話せませんし、読めません。」 「翻訳を頼みましたし、弁護士も頼みました。しかしすべて、拒否されました」  聴衆を包む暗闇から、驚きと怒りにも似た空気が小さくゆれうごく。 「警察の威圧的な態度に負け、結局サインするしかありませんでした。」 「するとそのまま、私は収容所の部屋に入れられたのです」  進行役は、女を思いやるように眉をよせながら、話をうながしてゆく。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加