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「本当にいたの、夜起きたら知らないおじいさんが立ってたの」 「夢でも見たのよ」 「なんで信じてくんないの」 「窓も玄関もちゃんと戸締りして寝たもの、誰かが上がりこんだら気付かないはずないでしょ」 「だから人間じゃないんだって」 「変なこと言ってないで、早くご飯食べちゃって」 両親は信じてくれない。信じてもらえるわけがない。私だってまだ半信半疑だ、ぬらりひょんが実在するなんて。 けれど見れば見るほど挿絵の妖怪と神出鬼没のお爺さんはそっくりで、確信が強まっていく。 ぬらりひょんに取り憑かれた一家なんて馬鹿げてる。どうにかして追い出したいけど、具体的な方法がわからない。 この家を出るまで一生謎の気配や人影に怯え続けなきゃいけないとしたら…… 「ちょっと、何これ!」 買い物帰りのお母さんの悲鳴がキッチンに響き渡る。 「目玉焼きの練習してたの」 ふと見下ろせば台所のカウンターはたまごの黄身と殻だらけ、私の手はぐちゃぐちゃだ。考え事に夢中になって、一心不乱にたまごを割り続けてたらしい。 「私がいない時に火を使わないでって言ったでしょ」 「子ども扱いしないでよ、大丈夫だって」 相変わらずの心配性を無理して笑い飛ばす。 お母さんが私をどかしてコンロの火を消し、大袈裟に肩を窄めてため息。老け込んだ横顔に疲労の色がよどむ。 「手を洗って、自分の部屋に行ってて」 「……ごめん」 凄まじい剣幕に気圧され、台所で手を浄めてから大人しく部屋に戻った。
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