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その夜。 ぬらりひょん対策に箒を携えトイレに立った私は、偶然両親の会話を聞いてしまった。 一階奥の和室、襖の隙間から細い明かりが漏れてくる。 「隠しておくのはもう無理よ。どんどん酷くなってく」 「わかってる」 「近所の人に白い目で見られてるのよ」 「俺だってちゃんと考えてるさ」 「嘘」 「親戚とも相談して……」 「可哀想だって思わないの?」 「仕方ないだろ、本当の事言うとパニック起こすんだから。前だってそれで手を焼いたの忘れたのか」 「だったら証拠を見せれば」 「本人だって認識できないのに?」 お父さんがいらだち、お母さんが啜り泣く。 夫婦喧嘩の現場に居合わせた気まずさにも増して、やりとりされる内容の不可解さに箒を掴む手がじっとり汗ばみ、心臓が狂ったように早鐘を打ち始める。 「こんなの耐えられない。あんまりよ」 「俺だって同じ気持ちだよ」 襖の隙間の向こうでお父さんがお母さんに寄り添い、力強く肩を抱く。 私は階段下の窪みに隠れ、二人が和室を出るまでじっと待っていた。 和室の電気が消えたのを確認後、箒を持ったまま這い出して襖を開け、二人の間にあった分厚い本を手に取る。 アルバムだ。 息を殺してページをめくり、我が目を疑った。 ぬらりひょんのお爺さんが、知らないお婆さんと一緒に写っていた。
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