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②
俺は『本気の恋』に憧れていた。
最初の恋があんな風に終わってしまったから、余計に憧れてしまった。
二十五年生きてきていいなぁって思う相手も何人かいたが、自分からは一歩を踏み出す事はできなかった。昨夜別れたヤツは毎日俺と同じ電車を使っていたヤツで、俺としては声を掛けられて初めて認識したくらいだけどそれでも付き合ったのはあまりにも熱心に口説いてきたからだ。俺が断っても断ってもしつこく付き合って欲しいとお願いされたのだ。そのくらい熱のあるヤツだったらもしかしたらいつか『本気の恋』に変わるんじゃないかって思ったんだ。だからOKした。
なのに、中身を知った途端「騙された」って別れを告げられたんだ。
やっと再び始めようとした恋だったのに、やっぱり俺の事なんて本気で愛してくれる人なんていないんだ。
俺は自然体のままそいつの事を好きになろうと思っていたし、誠実であろうとした。それもこれも長くつきあっていきたかったからだ。
無理をして自分を取り繕ってダメになった時にまた先輩の時のように後悔したくはなかった。
たとえダメになってしまっても満足がいく『終わり』を迎えたかった。
付き合う前からダメになった時の事を考えて、結局はダメになった。
どこまでも後ろ向きな自分が嫌になる。
いつまで過去に囚われているのか――。
バラエティ番組を観て大きく口を開けて笑うとか、部屋ではリラックスしたいから上下スウェットだとか、休みの日は昼過ぎまで寝てるとか――。
元恋人が言うには、俺はバラエティ番組なんてそもそも観ないし、いつでもどこでもきっちりとした恰好をしていて、休みの日には紅茶を飲みながら詩集を読む。もっと色々言ってたけど途中からめまいがしてよく覚えていない。
いやいやいやいや、そんなヤツ現実にいるのか?
いたらお目にかかりたいもんだけど。
連日の猛烈アプローチは何だったんだってくらいあっけない最後だった。
元恋人の事を思い出してみても心がちっとも痛まない事に溜め息が出た。
いくら熱心に口説かれたからって好きでもないヤツと付き合い始めた事自体が間違ってたんだ。
俺の『本気の恋』どっかに落ちてないかな?
俺の事がものすごく好きで、どんな俺でも心から愛して大事にしてくれる人。
「騙された」なんて言わない人。
そして一番大事なのは俺が心から愛せる人――。
あの日目にしたラブレターのように――――。
気持ちを切り替える為にうーんと伸びをして、課長と目が合った。
やばっとにっこり微笑むがぷいっとそっぽを向かれる。
――なんだよ。
あの人不愛想なんだよね。口元のほくろが色っぽくて、初めて見た時はちょっといいなぁって思ったけど最初っからあんな感じで、理由は知らないが俺は課長に嫌われている。
と言っても仕事上の事で不利益を被る事をされた事はない。そのへんは課長がちゃんとした大人でよかったと思う。
課長の旭川さんは独身で四十五歳だとか。そのくらい年齢が離れていたら俺に変な幻想も抱かないだろうし、何と言っても好みの顔だし……。
あーあ、いいなって思った相手には嫌われてるし、だからあんなヤツの事信じちゃって……、こんなんじゃ本気の恋なんてできるわけがないよな。
一生このまま一人なのかなぁ……。
俺はもう一度小さく溜め息を吐いた。
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