諦めきれない ① @旭川 彩

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諦めきれない ① @旭川 彩

 新人研修期間が終わり、彼が配属されたのは私と同じ部署だった。  ラブレターの件があり、相手は知らない事とはいえ彼の顔を見る事ができなかった。  少しも叶う事がないと分かった私の恋。  ラブレターと一緒に破り捨ててしまった私の恋。  だけど彼の顔を見てしまえば胸が痛くて、まだ彼の事を好きなんだと分かる。  その度に彼の「無理」という言葉が思い出されて、息の仕方を忘れてしまうくらい苦しくなった。  だから極力彼の顔を見ないようにした。 *****  あの日、ラブレターを笑っていた斎藤が凡ミスを連発した。  別にあの事で斎藤に恨みもないし、今は大事な部下だ。  空気が悪くなってしまった事に溜め息を吐き、豪華高級食事会で士気を高めた。  正直こんな餌で釣るなんてやり方はどうかと思うが今回ばかりはあまりにも酷く、その後の部署の雰囲気にも影響を与えかねない。  なんとかその日のうちに片付きほっと安堵の息を吐いていると、斎藤がやって来て長年付き合ってきた彼女に浮気されて振られたと何度も謝りつつ語った。  個人的な理由で業務に支障をきたす事は褒められた事ではない。  だけど、斎藤の気持ちも分かるからつい頭を撫でてしまった。  視界の隅に偶然入った彼の――――安藤の涙。  私の心はどきんと跳ねた。  なぜ安藤が泣くんだ? なぜそんなに悲しそうな顔をする?
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