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② @旭川 彩
私は安藤の涙がどうしても気になって、ぐずる斎藤を大急ぎでなだめ彼の後を追いかけた。
追いついた先で目撃したのは、男に殴られる安藤の姿だった。
更に殴ろうとする男を私は思わず取り押さえていた。
高校大学と合気道をやっており、あのくらいは朝飯前なのだ。
まぁブランクも長く後日筋肉痛になるだろうが……。
安藤の頬が赤く腫れており、思わず触れてしまった。
私に触れられた安藤は一瞬だけびくりと震えたが、私の冷たい手が気持ちよかったのかすりすりと頬を摺り寄せた。
その姿が可愛くて愛おしくて、――辛かった。
びっくりしすぎて動けないでいると、彼は少しだけ笑って今度は私の手の平にキスをした。
私は彼の行動の意味が分からず急ぎ手を引っ込めると、彼がキスをした手の平を守るようにぎゅっと握りしめた。
途端に彼の顔が曇り、苦痛に歪む。
「――――安藤……くん?」
声をかけるが彼からの返事はなかった。
そして彼は「ありがとうございました」とだけ私に言うと、逃げるようにその場から去って行った。
ひとり残された私は安藤くんの行動の意味を最後まで分かる事はなく、ただ彼の小さくなっていく背中を見つめる事しかできなかった。
握りしめた手の平は熱いのに、心は冷たくざわざわといつまでも落ち着かなかった。
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